Industry Reports
東南アジア小売市場の変革と展望 ―注目企業と最新トレンド解説

サマリー
東南アジアの小売市場は、パンデミック後に力強く回復し、新しい成長フェーズに入っています。若年層の購買力、デジタル化の加速、Eコマースの普及が市場の姿を大きく変えています。本記事では、成長を牽引する国や企業の動き、今後の課題と展望を整理し、日系企業にとっての示唆を探ります。
コロナ後に加速した小売市場の成長
東南アジアの小売市場は、パンデミックを経て再び活況を呈しています。背景には中間層の所得増加、若年層人口の多さ、家計消費の拡大があります。特にタイやインドネシアでは、消費カテゴリー全体で取引が増加し、回復を牽引しました。
市場全体は2025年から2033年にかけて年平均5%の成長が見込まれています。これは米国や日本といった成熟市場を上回る水準です。消費力の底上げにより、SEA(東南アジア)は小売開発の高成長期に入ったといえます。
成長を牽引する国と若年層の購買力
| インドネシアとフィリピンが小売市場の成長を牽引
東南アジア市場の成長は、所得増加や急速な都市化に加え、若い世代による購買力が拡大があります。中でもインドネシアとフィリピンは個人消費が成長の原動力となっている”消費主導型経済”(consumption-driven economy)が小売業の成長を支えています。
| Gen Zが支える消費主導の成長
インドネシアとフィリピンは、若年層を中心としたデジタル世代に支えられ、消費主導の成長拠点として台頭しています。特にGen Z(1990年代後半〜2010年代生まれのデジタルネイティブ世代)の購買行動は市場に大きな影響を与えています。
インドネシアではインターネット利用者の6割以上が製品調査にSNSを活用しており、TikTokやInstagramなどのプラットフォーム統合はブランド戦略に欠かせません。
Eコマースとテクノロジーの台頭が加速する小売変革
| F&B Eコマースの急成長
東南アジアの小売市場では、Eコマースが大きな成長エンジンとなっています。特にF&B(食品・飲料)は、2021年から2025年にかけて年30%以上の成長が見込まれ、美容やアパレルを上回る勢いです。 ShopeeFoodといったプラットフォームは、利便性や割引に加え、ショッパーテインメント(娯楽と購買を融合させた販売手法)を導入し、成長を後押ししています。
| オムニチャネル戦略の拡大
オムニチャネル(実店舗とECを統合した販売戦略)はSEAで不可欠になりつつあります。タイのCentral Retail Corporation (CRC) はこの戦略を積極的に推進し、2024年には売上の2割を占めるまで拡大しました。特にベトナムやタイではモバイルコマースが急速に浸透しています。
| ライブコマースの普及
SEAはライブ配信を通じた販売で世界的な先進地域となりました。2024年には、ライブストリーミング型ショッピングが地域Eコマースの2割を占めるまでに成長。スマートフォン利用の定着やストリーミングアプリの普及が背景にあります。
東南アジアの小売業:注目企業とその戦略
東南アジアで急成長を遂げる小売企業の多くは、オムニチャネル、デジタル技術、ローカライゼーションを巧みに活用しています。これらを駆使し、成長を牽引する注目企業5社を紹介します。日系企業にとっても、現地消費者のニーズに対応し、テクノロジーを活用した差別化を進めるヒントになるでしょう。
Central Retail Corporation (CRC)(タイ)
事業内容: タイ最大の百貨店小売業者。Central Department StoreやRobinsonを展開し、ハイパーマーケットや専門小売にも参入。アパレル、家具、家電、宝飾品など幅広い商品を取り扱う。
特色:
- オムニチャネル戦略を先駆的に導入し、2024年には売上の20%をEC統合で実現。
- 世界初の没入型小売アプリ「C-Verse」を開発し、EC・SNS・ライブ配信・仮想空間を融合。
- コロナ後はデジタルファーストへ迅速に転換し、売上をパンデミック前水準に回復。
Sea Ltd / ShopeeFood (シンガポール/東南アジア各地)
事業内容:フードデリバリーサービスを中心に展開し、GrabFoodと並ぶ東南アジア主要プラットフォーム。親会社 Shopee のエコシステムと連携し、食品・飲料分野でのオンライン購買を加速。
特色:
- 東南アジアで最も成長が速い食品・飲料Eコマースを牽引。
- 利便性や割引に加え、ライブ配信やアプリ内イベントを通じて「ショッパーテインメント(娯楽と購買の融合)」を推進
- ShopeeやLazadaと同様に、効率的な物流体制とスムーズな返品対応を整備し、持続的な高収益を実現。
Indomaret (インドネシア)
事業内容:インドネシアを代表する小売チェーンで、日用品や食品など生活必需品を提供するミニマート(小型店舗)ネットワークを全国に展開。
特色:
- 小型店舗フォーマットで従来のスーパーマーケットを凌ぎ、急速な都市化や大型店舗不足、少量購入ニーズに対応することで市場を拡大
- 手頃な価格と利便性を武器に、幅広い消費者層を取り込む
PT Supra Boga Lestari Tbk / Pasarina by Ranch Market(インドネシア)
事業内容:PT Supra Boga Lestari Tbk は、子会社を通じてスーパーマーケット事業を展開しており、青果・精肉・鮮魚・デリカテッセンなどの生鮮食品を提供しています。グループは複数のブランドを展開し、幅広い消費者層を対象としています。その中で、富裕層やアッパーミドル層向け高級スーパー Ranch Market の新業態として位置づけられるのが Pasarina です。
特色:
- PasarinaはAIとARを活用したメタバースアプリで、買い物を「宝探し体験」に変換
- AIやチャットボット等デジタル技術を活用し物理店舗に依存しない顧客体験を提供
Mixue Group(中国)
事業内容:Mixue Group(蜜雪冰城股份有限公司)は、中国・鄭州で創業した飲料・スイーツチェーン。主力ブランド Mixue Ice Cream & Tea を中心に、アイスクリーム、ティードリンク、デザートを提供している。原材料供給(Henan Daka Food)、物流(Shangdao Intelligent Supply Chain)、店舗運営までをグループ内で垂直統合し、コスト効率と品質管理を徹底。中国全土での拡大に加え、ベトナム・インドネシアをはじめとする東南アジアにも積極的に進出している。
特色:
- マンゴーボバやココナッツミルクティーなど、地域嗜好に合わせた商品ラインナップで多様な文化や消費行動に対応し、東南アジア市場で高い受容性を獲得
- SNSや動画配信を活用したデジタル戦略により、口コミや拡散力を武器に急速なブランド認知とシェア拡大を実現
東南アジア小売市場の展望と日系企業への示唆
| 東南アジア小売市場が直面する主要課題と展望
東南アジア小売市場の成長を阻む大きな要因は、物流と不動産コストの2つです。
ラストマイル物流の非効率:インドネシアやフィリピンのような群島国家では、道路網の未整備や海上輸送への依存により、配送遅延やコスト上昇が課題となっています。しかし、逆に言えば効率的な物流ソリューションやテクノロジー導入を行える企業には大きな参入余地があります。
賃料上昇と物理的拡張の制約:シンガポールやホーチミンなど都市部では賃料が高騰し、収益を圧迫しています。一方で、地方都市はまだ開発余地が大きく、オンラインと実店舗を組み合わせたハイブリッド戦略を展開できれば、先行優位を築く機会となります。
一方で、オムニチャネル戦略、デジタル技術、ローカライゼーションを取り入れる企業は成長を加速させています。日系企業にとっても、現地消費者の嗜好を理解し、テクノロジーを活用した差別化を進めることが、持続的な成長と市場シェア拡大につながるでしょう。
東南アジアの企業情報や業界トレンド情報を効率的に収集
今回はSpeedaのレポート “Navigating Southeast Asia’s Fast-Changing Retail Scene” の内容を抜粋してご紹介しました。
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