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経営者インタビュー

経営者に聞く「村田製作所シンガポール 泉谷寛マネジング・ディレクター」 トップインタビュー

ASEAN経営者インタビュー


(写真左から) ASEAN専門家 川端隆史氏、村田製作所シンガポール 泉谷寛 マネジング・ディレクター、SPEEDA ASEAN CEO 内藤靖統

「経営者に聞く」インタビューシリーズ

SPEEDA ASEANでは、ASEAN市場で挑戦している皆様を、経済情報とコミュニティ作りを通してご支援しています。

「経営者に聞く」インタビューシリーズでは、ASEAN地域で事業展開する日系企業の代表者の方々に、ご自身の経営哲学や信念、海外事業経営の醍醐味(挑戦の難しさと面白さ)をお伺いし、ご本人と会社の魅力を読者の方々にお届けする企画です。

今回は、SPEEDA ASEAN CEOの内藤靖統とASEAN専門家の川端隆史氏がお話しを伺ってきました。

村田製作所として、1972 年に初めて海外に設立した工場は、シンガポールにあります。

この50 周年を控える重要なタイミングで、現地のトップして赴任した泉谷寛氏に、東南アジアや南アジアのビジネスの秘訣を聞き、ビジネスパーソンとしての軌跡に迫りました。

シンガポール政府を活用する方法

川端:シンガポールに泉谷さんが社長として赴任したのは、2021年。コロナ禍の最中というタイミングでした。特殊な環境でスタートしましたが、今はポスト・コロナを迎えています。これまでの2年ほど振り返って、シンガポールでのビジネスの面白さと難しさをどのように感じていますか。

泉谷:はじめの1年間くらいは、コロナ禍のため外部との付き合いが限られていましたが、様々な規制が緩和されたこの1年間くらいは社外の方との対面でのやり取りや、出張に出ることも徐々に増えて、仕事の楽しみが増えてきました。

一つ、印象的なエピソードを挙げましょう。日本だと、なかなか政府高官や大臣クラスと合うことはありませんが、シンガポールだと国の規模もあって、結構、会う機会があります。「トリパタイト」といって政府と組合と企業が、三位一体となって作戦を練ります。

日本で言えば、「政労使」のイメージです。その席に、大臣クラスや政治家の方が参加されて、直接、議論を交わせる。シンガポールという国は、まるで企業のように、トランスフォーメーションを繰り返して「次はこういう業界を呼び込んでこよう」というスピード感も持って動いています。

私たちも、この動きに上手く乗っていけるかどうかは重要なポイントだと感じています。

川端:政府関係とのやり取りを通じて、これは感心するな、といった具体的な点はありますか。

泉谷:シンガポール政府は我々以上にストラテジックだと感じます。政府側も達成したい明確な目標と支援メニューを用意しています。

我々が政府にお願いしたいことや求める役割も含めてストラテジックにアプローチすると、「それなら、政府としてはこれもありますよ、できそうですよ」と言って色々と話が広がり、ソリューションを考えてくれます。

一方で、仮に我々が「明確なやりたいこと」をもたずにアプローチしても、うまくいかないでしょうね。

幸い、当社はシンガポールで50年という長い歴史を持っていますので、政府側も認知していただいているということは大きいです。スピード感も持って、もっともっと活用していくべきです。シンガポールでの仕事の面白さの一つでもあると思います。

環境を言い訳にせず、チャンスに変える

泉谷:シンガポールはご存じの通り、すでに高所得の国です。そのような国に、当社は工場を2つ持っていて、2000名以上の従業員を抱えています。

工場のうち1つ目は、当社グループのなかで最初に設立した海外工場で、202212月に50周年を迎えました。もう一つは、2017年にソニーさんのバッテリー事業をM&Aした時に引き継いだ工場となります。

川端:これだけの規模の拠点をどうのように活用されているのでしょうか。 

泉谷:製造拠点としては、どうしてもコストが高くなってしまいますし、オペレーターは外国人に頼ることになります。ただ、ビザをはじめ様々のルールがあり簡単に雇用ができる環境ではありません。

はじめは私もこうした「難しさ」と向き合いがちでした。しかし、私は、もうその考え方を捨て去りました。シンガポールという国にいるのだから、良いところをどんどん活用すればいい。そう切り替えたのです。

 工場はスケールアップが1つのステータスとなります。しかし、シンガポールの環境で目指すべきは、スケールアップではない他の役割です。例えば、社員には「世界最高の生産性を達成する」といったチャレンジに取り組み、目指すべきは、スケールではなくクオリティだと伝えます。

また、他のシンガポールの良い面としては、デジタルリテラシーの高い人材やスタートアップ企業が多い。こうしたプラスの環境を使って、「シンガポールらしい価値のある工場」にしてゆくという発想が大切です。

川端:シンガポールは確かに、製造業の拠点として低コストには全く向きませんね。ただ、それを嘆いても仕方がありません。 

泉谷:結局のところ、大切な財産は『人』だと思います。今、東南アジアに工場を作っています。10年前はフィリピンに作りました。タイには長年、工場がありました。今後も増える予定で、今はMLCC(積層セラミックコンデンサ)の工場の立ち上げしています。

こうした工場の立ち上げのプロセスで、先行してノウハウが蓄積しているシンガポールの工場が「お兄さん工場」として、海外工場の立ち上げや運営を支えるハブのような存在としてサポートしていくことができます。

このようにシンガポール拠点には、規模だけではなく仕事のクオリティの部分で貢献していくことも求められていると認識しています。

川端:泉谷さんは、ポジティブなところに目を向けて、それをどう活用してやろうか、とお考えになっていると感じました。

泉谷:強みを使わないと価値が生まれません。弱みに目を向けても、本当の価値には繋がらないので、強みを生かすしかない、そのように考えています。

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