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Industry Reports

拡大するアジアのモバイルゲーム市場

サマリー

アジアのモバイルゲーム市場が急成長。中国・日本・東南アジアの主要国の最新動向を、課金モデルや開発トレンド、競争環境とともに解説。

ゲーム業界を先導するモバイルゲーム

|  拡大するユーザー層とM&Aによる競争力強化

世界のゲーム市場において、モバイルゲームが売上の約半分を占めるまでに成長している。背景にあるのは、スマートフォンの普及と、誰でも気軽に楽しめるゲーム内容だ。これにより、PCやコンソール(据え置き機)ゲームに比べて、より幅広いユーザー層を取り込んでいる。最近では、PC・コンソールゲームを手がけてきた大手企業も、クロスプラットフォーム戦略を通じてモバイル市場に参入し始めている。

収益モデルとして主流なのは「フリーミアム型」だ。無料でゲームを提供しつつ、少数の“課金ユーザー”から大きな収益を得る構造が続いている。ただし、近年は技術進化によって開発費・広告費ともに上昇しており、モバイルゲームの“低コスト優位”は薄れつつある。

この10年でスマホの普及率が飛躍的に伸び、ゲームの操作性やグラフィックの進化と相まって、モバイルゲーム市場は急拡大した。2023年にはプライバシー関連の新ルールの影響で一時的に市場が縮小したが、5Gや高性能端末の登場が後押しし、全体としては依然として成長軌道にある。

なかでも中国市場は圧倒的なゲーム人口を背景に世界最大の規模を誇る。一方で、地方都市では可処分所得の低さがユーザーの課金意欲に影響を及ぼしている。世界全体では、より高精細なゲーム体験やメタバース的な没入型コンテンツへの需要が高まりつつあり、これらの流れは今後さらに加速するとみられる。

競争環境では、コンテンツ確保と市場拡大を狙ったM&Aが活発に行われている。中国のTencent(腾讯・テンセント)は、自社SNSとの連携を武器に圧倒的な存在感を示し、NetEase網易・ネットイース)は自社開発力の強化や戦略的提携によって追随している。また、「Angry Birds」で知られるフィンランドのRovioは、既存IPに依存しすぎない戦略として、小規模スタジオの買収や新作開発に取り組んでいる。こうした事例は、今後の市場成長には「技術適応力」「独自コンテンツの獲得」「革新性」が不可欠であることを示している。

中国・日本がアジアのモバイルゲーム市場をけん引

|  成長続く東南アジアは次なる主戦場に

アジアのモバイルゲーム産業は、今や世界のゲーム業界をリードする存在となっている。その中でも、中国と日本は技術力と適応力を武器に、圧倒的な存在感を示している。

中国では、モバイルゲームがゲーム全体の売上の約75%を占めており、スマートフォンの普及とフリーミアム型課金モデルがその成長を後押ししている。厳格な規制や開発コストの上昇といった課題もあるが、TencentやNetEaseといった大手企業は、積極的な投資とM&Aを通じて海外展開を進めている。

一方、日本はコンテンツの質と技術力で勝負する国として、世界第3位のモバイルゲーム市場を維持。特に知的財産(IP)を活用した戦略が際立っており、人気ゲームやアニメ、マンガなどを活用したマルチメディア展開が成功の鍵となっている。スクウェア・エニックスのように、コンソール向けタイトルをモバイルへ転用する動きも活発化している。

この二大国に続くかたちで、東南アジアの主要国でも市場拡大が加速している。マレーシアでは政府の主導による産業振興策やeスポーツへの投資が進み、地域のゲーム開発ハブとしての地位を築きつつある。現地のデベロッパーに加え、外資企業も広告収入やフリーミアムモデルを活用して参入している。

タイはASEAN主要6カ国の中で2番目に大きなゲーム市場であり、スマホの普及率の高さと熱心なゲーマー層の存在が成長を支えている。国内外のプレイヤーが激しく競争するなか、ジャンルやサービスの多様化が求められている。

ベトナムも急成長中の注目市場だ。インターネットとスマホの普及に加え、非現金決済の普及やAI・ハイブリッドゲームモデルの導入が進み、プレイヤーのエンゲージメント向上につながっている。近年では、地元企業と海外企業による共同開発も活発化しており、ベトナムは“開発拠点”としての存在感も強めている。


中国モバイルゲーム市場、スマホ普及と規制緩和で再加速

|  Tencent・NetEaseが国内外で存在感

中国のモバイルゲーム市場は、スマートフォンの普及、通信インフラの整備、そしてオンライン決済の浸透によって大きく成長してきた。現在では、ゲーム産業全体の売上の約75%をモバイルが占めるまでになっている。可処分所得の上昇と、デジタルコンテンツにお金を払うことへの心理的ハードルの低下も後押しとなっている。

この市場では、フリーミアム型のビジネスモデルが主流で、収益構造の中心はパブリッシャー(配信会社)にある。ただし、技術の高度化に伴い開発コストは上昇しており、特に中小の開発企業にとっては新規参入のハードルが高くなっている。また、中国特有の厳しいライセンス制度も、業界の構造に大きな影響を与えている。

2022年には、規制強化により市場が一時的に縮小したが、2023年には回復基調に転じた。景気の持ち直しやコロナ政策の見直しが追い風となり、売上は過去最高を更新。ライセンス発行の制限が緩和されたことにより、多くの新作ゲームが承認され、デバイスをまたいだ展開や新しいユーザー層の獲得が進んでいる。こうした変化は、「規制の厳格化」と「革新の余地」がせめぎ合う中で生まれた、新たな市場の転換点といえる。

市場シェアでは、TencentとNetEaseが圧倒的な存在感を放っている。両社で2023年の市場シェアの65%以上を占めており、海外投資やスタジオ買収を通じて、グローバルな競争力をさらに高めている。Tencentは、WeChatやQQといった巨大SNSとの連携によって、ゲームの拡散力と収益力を高めている。NetEaseは自社開発力の強化と、戦略的パートナーシップによる柔軟な対応が強みだ。

一方で、Perfect Worldなどの中堅企業は、人気のPCゲームをリメイクすることでニッチな市場を開拓している。こうした動きからも、中国のモバイルゲーム市場はグローバル化と多様化が進む中で、規模の経済と技術革新の両方が生き残りの鍵となっていることが見て取れる。


 

IPと技術力で存在感を維持する日本のモバイルゲーム市場

|  成熟市場でも「ヒットIP×多展開」が成長ドライバーに

日本のモバイルゲーム市場は、2022年時点で約1.2兆円規模と、世界で3番目に大きな市場となっている。モバイル専業の企業だけでなく、コンソールやPC向けにも展開する大手デベロッパーが参入しており、いずれも開発体制の強化とIP(知的財産)の活用によって競争力を高めている。

課金モデルは引き続きフリーミアム型が主流で、ゲーム内アイテムの購入と広告収入の組み合わせが一般的だ。開発各社は、既存IPの権利保有者と連携し、開発費やマーケティング費の効率化を図る一方で、技術進化への対応を進め、品質向上にも取り組んでいる。

コロナ禍で一気に拡大した日本のモバイルゲーム市場は、2022年にやや落ち着きを見せ、売上は前年並みの1.2兆円で安定した。ただし、ユーザー数と1人当たりの課金額(ARPU)は過去10年間で着実に増加しており、根強い需要があることを示している。現在の課題は、動画配信やSNSといった他のオンラインコンテンツとの「時間の奪い合い」にいかに勝つかという点に移ってきている。

こうした環境の中で、日本のデベロッパーは、ヒットIPの再活用と新規タイトルの開発を両軸に据えている。老舗企業から海外勢までが入り乱れる中、純粋なモバイル特化型のガンホーは海外展開に注力。一方、スクウェア・エニックスのようなマルチプラットフォーム企業は、コンソールIPをモバイル向けや非ゲーム領域にも展開し、事業の多角化を進めている。

日本市場では、一つの大ヒットIPが企業の売上の大部分を占めるケースも少なくない。IPの創出・育成・拡張がいかにできるかが、今後の成長の鍵を握る。競争が激化する中でも、IP活用の巧みさとクロスプラットフォーム展開の柔軟性が、日本のモバイルゲーム産業の成長をけん引していく。


マレーシア、政府主導でモバイルゲーム市場が急成長

|  地元企業と外資が競う“分散型”エコシステム

マレーシアでは、モバイルゲームがゲーム産業全体の約75%を占めており、業界の中心的存在となっている。政府はこの分野を経済成長の推進力と位置づけており、外資誘致や産業育成に積極的だ。現地パブリッシャーの多くは広告モデルを採用しており、78%のゲームに広告が組み込まれている。これは世界平均を上回る水準だ。さらに、アプリ内課金や広告によって収益を上げるフリーミアム型も広く普及している。このように、支援的な制度とビジネスモデルの多様性が、地場企業の成長を後押ししている。

市場の成長を牽引しているのは、eスポーツの人気上昇と、政府による明確な戦略だ。マレーシアを「東南アジアのeスポーツハブ」と位置づけた国家戦略に基づき、多額の投資が行われ、規制機関の整備も進んでいる。スマートフォンの性能向上や端末価格の低下により、幅広い層がモバイルゲームを楽しめる環境が整ってきた。特にeスポーツ系タイトルが国内市場を席巻しており、競技性とコミュニティ志向が高いゲーム文化が根付いている。

マレーシアのモバイルゲーム市場は非常に分散しており、地元企業と外資系企業が入り混じる構造だ。CIB DevelopmentCubinet InteractiveAppxplore(iCandyなどのローカルデベロッパーは、東南アジアのユーザー特性に合ったタイトルを展開することで一定の地位を築いている。一方で、外資系企業はマレーシアのビジネス環境の良さを活かし、現地企業との提携や買収を通じて存在感を高めている。

グローバル資本とローカルの創造力が交錯するこの市場構造は、今後の成長に向けた柔軟性と競争力の両方を兼ね備えており、マレーシアがモバイルゲーム産業の重要な拠点として確立されつつあることを示している。


タイ、東南アジア屈指のゲーム大国へ

| 激戦市場で進む国内外プレイヤーの攻防

タイのモバイルゲーム市場はASEAN主要6カ国の中で2番目の規模を誇り、スマートフォンの高い普及率と熱心なゲーマー層がその成長を支えている。国内のゲーマーのおよそ9割がスマートフォンを主なゲーム端末として利用しており、モバイルゲームが圧倒的な主流だ。課金モデルはフリーミアム型が中心で、キャラクターやゲーム内通貨といったバーチャルグッズの販売が主な収益源となっている。シューティング系やカジュアル系といった人気ジャンルが安定してプレイヤーを引きつけており、市場の活気を反映している。

過去5年間で、インターネットの普及とスマートフォンの保有率が大きく伸び、市場は着実に拡大した。2023年には国内のインターネット利用者が全体の88%に達し、デジタル環境の整備が定着したことを示している。端末性能の向上とユーザー層の拡大により、スマホゲームの勢いは加速した。2023年には一時的にユーザーのゲーム支出が減少したが、それ以前の数年間にわたる成長基調から見ても、回復の余地は大きい。

市場は非常に競争が激しく、国内外のデベロッパーがシェアを争っている。Garena OnlineAsphere Innovationsといったタイ発の企業は、独自コンテンツと広範なユーザーベースを武器に存在感を示している。一方、中国や韓国などの外国企業も、タイの市場特性に合わせたタイトルで徐々に支持を集めている。

プレイヤーが簡単にゲームを乗り換えられる「スイッチングコストの低さ」も、この市場の特徴だ。企業側には、継続的なアップデートや魅力的なコンテンツ投入が求められており、「いかに飽きさせずにユーザーをつなぎとめるか」が勝負の分かれ目となっている。


ベトナム、ジャンル多様化と国際連携で成長加速

| 400社超が競う開発拠点としてのポテンシャル

ベトナムのモバイルゲーム市場は、アクション・RPG・ストラテジーなど幅広いジャンルの人気を背景に、急速に拡大している。開発各社は、フリーミアム型、ゲーム内広告、サブスクリプションといった多様なマネタイズ手法を組み合わせ、幅広いユーザー層の獲得を目指している。ダウンロード数は好調だが、ユーザー1人あたりの収益(ARPU)が低く、収益化と定着率の面では引き続き課題が残っている。

過去5年間、インターネット環境とスマートフォンの普及が着実に進み、市場全体が右肩上がりで拡大してきた。5Gの導入がユーザー体験を向上させ、より高度なゲームプレイが可能になったほか、モバイルバンキングや電子ウォレットを活用した“非現金決済”の普及が、ゲーム内課金の利便性を高めている。さらに、AIの活用やジャンルを融合した「ハイブリッド型ゲーム」など、新しい技術や企画の導入も進み、ベトナムはゲーム開発の生産拠点としても国際的な注目を集めつつある。

この国のモバイルゲーム市場は非常に分散しており、国内企業だけでも400社以上が存在している。VNG CorporationSohaGamotaといったローカルリーダーは、多様なジャンルのタイトル展開と、海外企業との共同開発を通じて強いプレゼンスを築いてきた。近年では、XsollaNCsoftといったグローバル企業との提携事例も増えており、ベトナム発のゲームコンテンツの品質向上と国際展開が進んでいる。

こうした動きは、ベトナムが単なるローカル市場にとどまらず、「モバイルゲームのイノベーション拠点」として進化していることを象徴している。今後、グローバルな開発・流通のハブとしての役割が、さらに強まっていく可能性がある。

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