Skip to content

Industry Reports

ASEAN二輪車市場:成長トレンドと電動化の未来

サマリー

ASEANの二輪車市場は、日本メーカーの支配と電動化の加速という大きな変革期を迎えている。人口増加や都市部の渋滞を背景に需要は拡大し、政府のEV推進策が市場を動かしている。本レポートでは、ASEAN-6の市場動向、主要プレイヤーの戦略、成長のカギを詳しく解説する。

フィリピン:急成長が期待される新興市場、低普及率とコスト重視の消費動向

フィリピンは、ASEAN内では二輪車市場としてまだ発展途上の段階にあり、生産および販売規模は他のASEAN諸国と比べても小さいが、今後の成長ポテンシャルは非常に大きい。
二輪車はその手頃な価格と交通渋滞の中での利便性から広く普及している。普及率自体はまだ低いものの、手頃なローン制度や、庶民にとってのコスト効率の良さに支えられ、最も選ばれる交通手段となっている。

| 環境規制と電動二輪車推進、政府支援による市場の変化

政府は、ユーロ3(Euro-3)基準に適合した二輪車を義務付け、汚染物質を排出する2ストロークエンジンの廃止に重点を置いており、環境に優しい選択肢として電動二輪車を推進している。国産のAgila電動二輪車のような初期の取り組みは、持続可能な産業への移行を示しているが、現時点ではまだニッチ市場向けにとどまっている。

フィリピンの二輪車市場は、パンデミックの影響を受けながらも回復力を示し、配達サービスの需要や公共交通機関の制限により成長した。
パンデミック以前の成長は、可処分所得の増加や、税制改革によって自動車よりも二輪車を選択する消費者が増えたことによって支えられていた。
現在、政府の支援施策や小型二輪車の需要拡大によって、市場は回復の兆しを見せている。

パンデミック前、フィリピンの二輪車輸入は急増しており、これはASEANの貿易協定により優遇関税が適用されたことが影響している。
インドネシアはフィリピンの最大の輸入相手国であり、これはASEAN地域内のサプライチェーン統合が進んでいることを示している。一方で、フィリピンの二輪車輸出は依然として少なく、政府は地元生産の促進を支援し、輸入依存度を減らすとともに、フィリピンメーカーの競争力強化を目指している。

| 合弁事業による外国メーカーの支配

フィリピンの二輪車市場は競争が激しく、日本メーカーが現地企業とのパートナーシップを通じて市場を支配している。ホンダヤマハスズキなどのブランドが、地元の大手財閥との協力により、強い市場シェアを維持している。

また、MDPPA(モーターサイクル開発プログラム参加者協会)やCHAMMP(中国モーターサイクルメーカー協会)といった業界団体は、国内生産の強化や競争力向上を目指した取り組みを行っている。アヤラ・コーポレーション (Ayala Cooperation)KTMの合弁事業のようなパートナーシップは、フィリピンの輸出および生産能力の強化をさらに後押ししている。

ホンダ・フィリピン(Honda Philippines)は、スマート技術を搭載した革新的なモデルを展開し、若年層の消費者を引きつけている。ヤマハはプレミアムセグメントをターゲットとしており、スズキは生産能力の拡大に注力している。カワサキはトライシクル市場に注力し、国内および輸出市場向けにコスト効率の高いモデルを提供している。これらの戦略は、市場の細分化(セグメンテーション)と製品の現地市場への適応を重視し、フィリピン市場のニーズに対応しながら成長を目指していることを示している。

タイ:ASEAN有数の二輪車生産国タイ、国内需要と輸出のバランス

タイはASEAN最大級の二輪車生産国の一つであり、主に国内需要を満たすことを目的としている。しかし、一人当たりの二輪車保有率は、近隣のベトナムやインドネシアよりも低い。業界は日本企業が主導する強固な製造基盤に支えられており、家族向けの通勤用バイクから高級レジャーモデルまで幅広いニーズに対応している。国内市場が生産量の大半を占めるが、主要なグローバル市場への輸出も行われている。

| タイ政府のEV戦略と次世代ゼロエミッション車(ZEV)生産計画

タイ政府は、税制優遇措置や電動車両(EV)開発に向けた戦略的マスタープランを通じて、二輪車産業を支援している。この取り組みは、2035年までにタイをASEANの次世代ゼロエミッション車(ZEV)生産の中心地とすることを目指しており、電動二輪車もその対象となっている。この計画は、世界的な電動化のトレンドと一致しており、EVセクターにおける新規参入企業や技術革新を促進している。

タイの二輪車市場は、2021年から2023年にかけて急速に回復し、パンデミック前の水準を取り戻した。国内販売と生産の主力は通勤用二輪車であり、市場を支配している。また、スポーツバイクのセグメントも大きく成長しており、消費者の嗜好の変化を反映している。これまでの生産量の変動は、特に農村部の経済状況と密接に関連していた。

タイは二輪車の純輸出国であり続けているが、2023年にはベルギー、中国、アメリカなど主要市場での需要低下により輸出額が減少した。一方、ベトナムやインドネシアからの輸入が増加しており、これらの国々のコスト競争力のある生産能力を活用している。こうした動向は、タイが地域の二輪車供給チェーンにおいて、輸出の強みと輸入依存のバランスを取る役割を果たしていることを示している。

| 日本メーカーの圧倒的なシェアとEV市場の新興企業

日本メーカーはタイの二輪車市場で圧倒的なシェアを持ち、タイ・ホンダ(Thai Honda)タイ・ヤマハ・モーター(Thai Yamaha Motor)が生産能力の87%以上を占めている。ホンダは、大規模な現地生産と強いブランド認知を背景に、市場をリードしている。一方で、国内外の新興EVスタートアップ企業が市場に参入し、競争環境に新たな活気をもたらしている。これらの動きは、政府が推進する電動化戦略とも合致しており、今後の市場競争の行方に大きな影響を与える可能性がある。

あなたにおすすめのコンテンツ