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Industry Reports

データセンター:新たな拠点として急成長する東南アジア

サマリー

東南アジアでいま、データセンター市場がかつてない成長を遂げている――。eコマースやAIの台頭、各国のデジタル政策、そして進化する法制度が、地域全体にインフラ投資の波を呼び込んでいる。本記事では、マレーシアやインドネシアの台頭、シンガポールの動向、さらには日本企業との協業可能性まで、急成長市場の核心に迫る。


データセンターの建設を支える供給側の要因

| インフラ、接続性、帯域幅の確保

東南アジア諸国は、海底ケーブルやネットワークのアップグレードにより通信インフラの整備が進められており、2027 年までに 34 本の新しいケーブルプロジェクトが計画されている。

インターネットインフラの性能を測る上で重要なのが「リット帯域幅(lit bandwidth)」と呼ばれる指標で、これは利用可能な設備が整った通信容量を意味する。
この点において、シンガポールは依然として東南アジア地域におけるインターネット拠点としての地位を保っているが、マレーシアも急速に追い上げており、データセンター誘致を目的に帯域幅の差を縮めつつある。

こうした接続性のアップグレードは、遅延の低減、信頼性の向上、大容量データのやり取りを可能にする環境づくりにつながっており、東南アジア域内だけでなく、グローバル規模でのデータ流通にも好影響を与えている。

| 信頼性の高い電力供給と水資源

データセンターは、特に熱帯気候では冷却のために大量の電力と水を必要とする。これにより現地の公益事業に負担がかかり、東南アジアでは電力と水の供給量が地域によって大きく異なるため、インフラの耐久性が立地選択の重要な要素となっている。

  • マレーシアは高い電力予備容量と、水資源にも余裕があるため、大規模なデータセンターとして特に有望視されている。
  • シンガポールは電力の安定性は高いものの、国土が狭く、冷却に必要な水資源の多くを輸入や高度な再生処理に頼っている点が課題となる。
  • インドネシア自然資源が豊富である一方、地域によっては電力の信頼性に課題がある他、自然災害のリスクも立地選定の上で障害となり得る。

とはいえ、東南アジア各国政府がエネルギーインフラの強化に取り組んでおり、これまでこの地域の大規模データセンター事業者にとって障害となっていた電力・水資源の制約は徐々に解消されつつある。

| 地政学的な中立性と競争市場での強み

東南アジアは、地政学的に中立的な立場にあることにより、世界的な政情不安のリスクを軽減したいグローバル企業にとって戦略的な拠点として注目されている。
とくに、シンガポール、マレーシア、インドネシアにクラウドやデータセンターの運用を分散させることで、企業は政治的・貿易的リスクを低減することができる。さらに、シンガポールとマレーシアは、災害リスクも低く、データセンターの安定的な運営を確保するうえで極めて重要な要素である。


データセンター市場:成長動向と今後の可能性

東南アジアのデータセンター市場は、2023年から2028年の間に年平均35%という驚異的な成長率で拡大すると見込まれており、同期間の世界平均(15%)を大きく上回っている。この急成長を支えているのは、以下のような複数の要因である。

  • 低い導入基盤 – 東南アジアの多くの国々は、まだ大規模で最新型のデータセンター(ハイパースケールDC)の整備が始まったばかりであり、新たな施設の開設が市場全体の容量を大きく押し上げる。
  • ローカリゼーションの法制化 – 前述のとおり、データの国内保管を義務付ける政府規制が、新しいデータセンターの建設を後押ししている。
  • デジタル需要の急増 – 電子決済、eコマース、ストリーミングサービスが日常生活に浸透する中、地域内で処理されるデータ量は増え続けている。

| 容量シェアのシフト:マレーシアとインドネシアの台頭

現在、シンガポールは東南アジアのデータセンター容量の59%を占めているが、2028年までにマレーシアとインドネシアがそれを上回り、それぞれ42%と20%に達すると予測され、シンガポールのシェアは19%に低下すると予想されている。

この変化を説明する主な要因は以下のとおり:

  • コスト面の優位性:マレーシアとインドネシアの土地や建設コストは大幅に低く、データセンター事業者は設備投資を抑えて大規模なキャンパス型施設の建設が可能となる。
  • 支援政策:マレーシアの「法人向け再生可能エネルギー供給スキーム(CRESS)」などのプログラムは、企業が再エネを調達しやすくなっている。これにより、持続可能性を重視するデータセンター事業者の誘致が進んでいる。
  • 空室率と土地不足:シンガポールの空室率はほぼゼロであり、不動産コストも高騰しているため、必然的に、マレーシアのジョホールやインドネシアのジャカルタ大都市圏など、より広大な近隣地域への拡大が進んでいる。

| コスト面での優位性:建設費と運用費の違い

レポートによれば、シンガポールでは土地の取得コストが1平方メートルあたり最大11,573米ドルに達する一方、データセンターの建設費も1ワットあたり約11.23米ドルと高水準である。

これに対し、マレーシアの土地価格はおよそ1,023米ドル/㎡、建設コストは1ワットあたり約8.53米ドルと、大きなコスト差が生じている。こうした違いは、両国の運用環境の根本的な差異を物語っている。

さらに、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピンといった国々も、土地取得・建設のコストが相対的に低く、空室率も高いため、データセンターの新設先として現実的な選択肢として注目されつつある。


持続可能な未来を見据えたデータセンター

東南アジアのデータセンター市場では、省エネルギー、再生可能エネルギーの活用、環境配慮型の冷却方式、電子廃棄物の適切な管理といったサステナビリティの要素が徐々に組み込まれ始めている。

この流れは、各国政府によるネットゼロ宣言や地球温暖化対策の国際的な目標に後押しされるかたちで加速している。

マレーシアは2050年までに再生可能エネルギーの割合を70%に引き上げる方針を掲げており、2015年に策定された「グリーン・データセンター仕様書」の改定を進めている。これにより、電力利用効率(PUE)や冷却システムに対する要件がより厳しくなる見込みだ。

シンガポールは2023年にグリーンマーク制度を改訂し、熱帯気候に対応した、サステナブル実践を奨励する内容となる新たな環境基準を導入した。

インドネシアはIDPRO(データセンター事業者協会)によるグリーンデータセンター基準の策定を進めており、PUEを1.5未満に抑えることや、2030年までにデータセンター全体の電力使用量を50%削減することを目標としている。

こうした取り組みにより、事業者は競争力および法令遵守を維持するために、より環境に優しい技術の採用とエネルギー使用量の削減を迫られている。

| 日本と東南アジアの新たな連携の可能性

国内市場の成長が鈍化するなか、東南アジアにおけるデータセンター開発は、日本企業にとって投資・協業の有力な選択肢となっている。

日本国内では、電力費や人件費の上昇に加え、データセンター市場の年平均成長率が約5%にとどまっており、海外展開を模索する動きが強まっている。

一方で東南アジアは、成長スピードが速く、コスト面でも優位性があることから、より魅力的な進出先として注目されている。

  • NTTデータは、マレーシア、シンガポール、インドネシア、タイ、ベトナムにわたる広域な拠点を持ち、シンガポールにおける20〜30億米ドル規模のデータセンターREIT(不動産投資信託)の上場計画も進めている。これは、東南アジアの成長市場に乗りつつ、投資家に安定的なリターンを提供する新たな手法を示している。
  • マレーシアのRegal Orionは、日本のIT技術者らによって設立された企業であり、日本の設計・運営ノウハウと、東南アジア市場の成長ポテンシャルが融合した好例である。同社が展開する「SHINSEI MALAYSIA 1」は、Tier IV準拠の高信頼設計と先進的なグリーン技術を取り入れており、サステナブルかつ高性能なモデルケースとなっている。
  • 日立エナジーは、東南アジアにおけるグリーン・データセンターの需要に対応する技術提供の一例である。温室効果ガスである六フッ化硫黄(SF₆)を排除した「EconiQ」スイッチギア製品群は、データセンターのCO₂排出削減に大きく貢献している。

さらに、日本政府も、東南アジアにおける持続可能なインフラ開発を支援する姿勢を示しており、グリーンDCを軸とした日ASEAN間の連携機会が広がっている。こうした取り組みは、日本のエンジニアリングや技術力を活かしつつ、東南アジアの急成長するデジタル基盤と結びつく、双方にとって有益なパートナーシップといえる。


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