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【セミナーレポート】「現法企画力」を鍛え、今アジアの変局を勝ち抜く(後半)

サマリー

Speedaセミナー「アジアの変局を勝ち抜く―現地法人の企画力と連携・協力の実践知―」では、日系企業の中国・アジア展開を支援してきたコーポレイトディレクション(CDI)の是枝邦洋氏・厳偉氏をお招きし、構造転換期のアジアを勝ち抜く、「現法企画力」について解説していただきました。セミナーのレポートは前半・後半に分けてお届けします。

本記事では、後半CDIの厳氏講演内容とパネルディスカッションの内容をお届けします。

前半パートはこちらからご覧ください。

※本内容は、2026年6月4日開催セミナー「アジアの変局を勝ち抜く―現地法人の企画力と連携・協力の実践知―」の内容を再構成したものです。


日中協力の事例から、日系現地法人が得られる示唆

協業は「契約」ではなく「プロセス」である


 

厳氏: 私はメーカー出身で、営業や企画、海外事業を経験し、現場を回ったり、イベントに参加したりして、さまざまな方とお話しさせていただく機会がありました。本日は、その経験を通しての実際の話をしたいと思います。

今日もっとも皆さまにお伝えしたいのは、協業(協力)は契約ではなく、プロセスであるということです。相手を冷静に見て、深く理解し、価値とリスクを設計し、対話しながら事業をつくっていく――それが核心です。

「協業の形は考えられるのに、実行段階で止まる」という話はよくあります。皆さまの会社でも「どこか現地の企業と連携しましょう」といった話が出ることは多いのですが、アイデアだけで止まってしまった経験のある方もいるのではないでしょうか。

背景には、(1) 相手をどこまで信じてよいか分からない、(2) 本社に説明できない、(3) ブランド毀損が怖い、(4) リスク分担が決められない、(5) 始めた後に言うべきことを言えない――という5つの“詰まり”があります。

厳氏講演資料より

協業のプロセス ―― 認め、知り、設計し、対話する


 

協業のプロセスは、「認める・知る・設計する・対話する」という大きく4つのステップに整理できます。

まず、冷静に相手を認めることです。 相手を下に見ても、怖がりすぎても協業は設計できません。是枝氏の講演でも触れられていたように、中国企業(現地企業)は市場のなかで強くなってきています。それを「負け」として捉えるのではなく、そこから自社の役割を見直すことが重要です。現地企業は、開発から販売までの機能をすべて現地に持っていることが強みです。「現地企業はここが強いよね」と認めながらも、優劣ではなく「お互いの力をどう組み合わせれば価値が出るのか」を見ていくことが重要なのです。

次に、相手を立体的に知る必要があります。 協業は、一度の商談からは生まれません。トップ同士の会話を何度か繰り返しただけでは、理解を十分に深めることはできないからです。相手を立体的に知るには、いろいろな角度から情報を集めることが重要です。公開情報、業界の声、現場での対話、第三者からの視点などを重ねることで、理解の質を変えていくことができます。

「協業の前段階」を観察できる場 ―― 日中食品経営研究会


 

ここで、一つ事例を紹介させていただきます。

2024年に立ち上げた「日中食品経営研究会」は、「産学連携」をコンセプトとした、中国唯一の日中食品業界の経営者交流の場です。ハウス、カルビー、キリン、味の素、明治、サントリーなど日系食品・飲料の有力企業が会員に名を連ね、HOTMAXX創業者やメトロ中国、スターバックスRTD事業部CEOといった中国側の経営者をゲストに招いてきました。マカオ大学・法卉助教授による「食の社会心理学」講座、復旦大学・張浩川教授による「辛口コメント」など、学術的な視点も組み込まれています。

これは協業のための会ではありませんが、結果として「協業の前段階」を観察できる場になりました。日本企業(課題・期待・本社との距離)、中国企業(市場感覚・実行力・協業意欲)、実務家・専門家(第三者視点・業界の声)、経営者同士(理念・意思決定・信頼形成)が集う「場」を持つことで、企業の実力だけでなく、考え方や意思決定の“癖”まで見えてきます。

厳氏講演資料より

ハウス食品 × 莫小仙 ―― 接触を重ねたから、協業が動いた


 

ここで象徴的な事例をご紹介します。ハウス食品中国と中国の食品メーカー・莫小仙(Mo Xiaoxian)によるダブルブランドのコラボ商品です。

協業の話が出る前に、莫小仙の王董事長を、私が携わっている研究会のゲストとしてお招きしました。その場はあくまで純粋に知見を共有する場として、王氏から会社の経営理念・事業構想・市場観、そして現在の中国の流通についての知見などを共有していただきました。

その後しばらくしてから、王氏がハウス食品の千葉研究所を訪問する機会があり、開発の現場を見学していただきました。トータルで4日間ほど一緒の時間を過ごすなかで、私自身も仕事だけでなくプライベートな話も交え、お互いをより深く理解する時間となりました。

その翌年、ハウス中国の宮戸董事長とともに莫小仙の本社を訪問し、トップ同士で面談しました。さらに、現場とのコミュニケーションや工場見学などを通じてお互いの理解を深め、最終的に、莫小仙ブランドの商品にハウスのロゴを冠した新しいダブルブランドのコラボ商品(即食型の日式カレー)の発売に至りました。

何度も時間をかけて対話を繰り返したことで、トップ同士の信頼と現場同士の理解を育て、形になったものだと思います。協業には「トップの意思」「現場の対話」「本社の理解」の3つがどれも欠かせないことを学ぶ機会となりました(TOP DOWN × FIELD DIALOGUE)。

厳氏講演資料より

リスクとブランドを「設計」する


 

今回、成功事例をご紹介しましたが、協業はしばしば実現しなかったという「リスク」があることもまだ事実です。

協業のスキーム自体は難しくありません。しかし「どう見るか」が難しいのです。例えば成果を、「売上が出たか」だけでなく「認知・棚・学習・関係性」で捉える。たとえ売上は上がらなくても、店舗の棚に置いてもらえたことでブランド認知が上がり、マーケティング活動として効果があったと捉える。リスクも、「自社に損がないか」だけでなく「双方が何を怖がるか」で捉える。

ブランドについても、毀損のリスクとして捉えるのではなく、日本と海外ではブランドのポジショニングが異なるのだから、現地市場に合わせて成長できるポジションへ変えることも考える必要があるのではないか、と捉える。現地企業との協業を、ブランド毀損ではなく知名度向上の機会と捉える――このように、一面だけで判断せず、立体的な見方を持たなければいけません。

さらに、始めた後も協業を放置しないことが重要です。実行し、結果を見て、共有し、修正し、次を決める。想定と違う方向に進んだら、我慢せずオープンに対話して早めに修正します。言いにくいことほど、うまく第三者を入れ、事業課題として扱うのが実務上のポイントなのです。

現地法人が、明日から変えられること


 

最後に、現地法人が明日から取り組めることを5つにまとめています。

厳氏講演資料より

協業は接触から始まり、対話で事業になります。仲良くするだけでなく、相手を深く知り、言うべきことを言い、リスクを負い合いながら、一緒に事業を前へ進めることなのです。


 

——ありがとうございました。続いて、日中投資促進機構の岡豊樹氏もお招きし、コーポレイトディレクション(CDI)是枝邦洋氏・厳偉氏から色々とお話をお伺いしたいと思います。モデレータは、株式会社ユーザベース Speedaアジア・インド事業統括の内藤が務めます。

近年の日中ビジネスの「変局」を現場でどう感じているか

——ここ数年の日中ビジネスの変局について、現場でどう感じられますか。

岡氏: 日本企業にとっての中国企業の立ち位置が、急速に変わっていると感じています。 現地で勝とうとする日系企業と、難しさを感じる日系企業の差が広がっています。今は「2つのAI」一つは AI/ロボティクスと、二つは ASEAN・インド(India)――この2つのトピックを視野に入れて事業を考えていかなければ、中国の流れについていけません。

また、中国企業の対日アプローチも変化しています。「日本企業とどう協業するか」から「日本企業を買収して日本市場へ参入する」へ、そして今は「日本企業を“シェル(受け皿)”として買収し、どう他の市場(ベトナムなど)へ展開するか」というビジネスモデルが、最も話題になっています。

是枝氏: 一言で言えば「しんどい」ですね。 中国で勝つ戦略を描くのが難しい。しかも、ASEANやインドへ向かってもそこには中国企業がいます。「中国で宿題を残すと、他の国でも宿題が残る」という構図が生まれています。中国企業がARグラス(次世代スマートグラス)の分野でクラウドファンディングにより多額の資金を集めるなど、中国勢は日本市場にも流れてきています。日本企業が今、中国で問題を解決できないと、その先もずっと向き合う必要に迫られるのだと思います。

——中国企業と日本企業を現場から見ていらっしゃる厳さんの視点ではいかがですか。

厳氏: 日系企業が苦しむ一方で、中国企業も決して楽観的な状況ではありません。不思議なもので、日系企業も中国企業も中国マーケットという同じ環境にいながら、考え方や戦略はまったく違っています。中国企業にとっても中国市場は難しい。ただ、国内事業である以上は逃げられず、「やりきるしかない」のです。かつては日本企業も中国企業も自然と成長していけましたが、今は中国企業にとっても「変局」なのです。

 

中国企業は日本企業に何を求めているか

——続いてもう少し深掘りして、中国企業が今、日本企業に求めているもの、あるいは日本企業には見えていないが中国が求めているものはなんでしょうか。

厳氏: よく「技術」と言われますが、特定の技術があるかというと、実はないのですよね。昔は販売・流通を押さえると売れたのですが、今の小売市場は、消費者に売れる商品でなければ扱ってもらえません。中国メーカーは「中国の消費者に売れるもの」の仮説を立てることができても、それを形にするノウハウや技術を欠いていることがあります。例えば本日お話ししたハウスさんの事例でいうと、莫小仙はハウスさん・味の素さんのブランド力・技術力で、自社商品の完成度を高めることができました。

日系企業には商品化されていない技術の蓄積があり、求められているのは「既存ブランドや製品の技術」というより、「一緒に中国の消費者の困りごとを解決する、ものづくりのパートナー」なのではないかと思います。

岡氏: 中国の強みは「技術力+社会実装力+展開スピード」、日系の強みは「品質・アフターサービスのマネジメント、ブランド、チーム力」です。ただ近年は「特定の技術がほしい」という声が聞かれなくなり、日本企業に何を求めているのかが見えにくくなっています。唯一変わらないのは、中国企業オーナーが直面する「会社をサステナブルに運営できない」という悩みで、「三方良し」「長寿企業のカルチャー」「利他の経営哲学」といった日本企業のノウハウへの関心は、今も中国企業から根強く寄せられていると感じています。

是枝氏: 中国企業は、世界レベルで協業するパートナーとなってくれる企業を求めていると思います。どうしても日本企業からすると、中国企業と提携して中国市場にどう展開するか、という話になることが多い。しかし中国企業の経営者は当初から世界を見ており、日本企業に対しても「世界のどこで一緒に活躍できるか」を考えるパートナーであってほしいと望んでいます。中国企業が持っている技術でお互いにバリューアップができるのに、なぜ日本と中国だけの話になってしまうのか――そこがフラストレーションになっているのだと思います。

現地法人が直面する「壁」をどう崩すか

——現地法人が直面する権限・リソース・意思決定といった壁を、どう突破していけばよいでしょうか。

是枝氏: 講演内でもお話しさせていただきましたが、まずは現地法人で大きな絵(夢)を描くことが起点になると思います。自分たちだけではできなくても、中国企業と連携することで実現するなど、手段は考えられます。現地法人の総経理やマネージングディレクターのポジションの方でも、経営者としての訓練を受けていないことが多い。現地法人が「売上を伸ばす話」をする一方で、本社は投資効率といった話をする。本社側も、現地法人への期待や役割を十分に伝えられておらず、その結果、本社と現地法人で会話がずれてしまっているケースが多いと思います。

厳氏: 本社を動かすのは「熱量」です。中国事業をこうしたいといろいろ調べて設計した「夢」を、本社は感じ取ります。データを集めて、最後は熱量をしっかり本社に届けることです。

岡氏: 「こうしないと勝てない」という話を、第三者の口から伝えてもらうことです。勝つための条件(R&Dの現地移転、権限移譲、人材育成、人脈、中国式の働き方の尊重、地産地消モデルなど)をパワーポイント100枚にして本社に提案するよりも、第三者から「これをやっていないのは御社だけです」と言ってもらうことが有効だと思います。

明日から動くための「最初の一歩」

—— 最後の質問になりますが、今すぐ動くための「最初の一歩」として、どういったものが挙げられるか、皆さま一言ずつお願いします。

岡氏: 常に自分の仮説を立てて、取引先や従業員にぶつけて聞いてもらう。あるいは仮説を持たずに、まずステークホルダーや従業員の声をじっくり聞いて壁打ちをする。第三者の意見を自分の仮説にぶつけることは、明日からできると思います。

厳氏: もっと業界に入り込むことです。日系の食品企業は、まだ中国の業界フォーラムに登壇しないことが多いと感じます。しかし、同じ業界で苦しむ“仲間”から得られる知見、共有できる経験は大きい。特に経営企画の方には、自社の業界・異業種を含めて、いろいろな話を聞き、情報を交換してほしいと思います。

是枝氏: 「自社は本当に中国で本気を出せているか(フルスイングできているか)」を問い直してほしいと思います。長年「何をやってもダメ」と言われ続けた結果、現法トップも現地従業員も、発想の幅を無意識に狭めてしまう“学習性無力感”に陥りやすいものです。日本国内と同等の勢いで投資・人材を投下したらどうなるかを考える。特に総経理・幹部クラスの方は、自身がタガを外してフルコミットしている姿を見せることで、現地従業員からのアイデアも引き出していくことができると思います。


登壇者

  • 是枝 邦洋 氏 ― コーポレイトディレクション マネジングディレクター(アジアビジネスユニット所管)/上海オフィス 董事長・総経理。2010年の上海オフィス立ち上げ以来、約15年にわたり日系企業の中国事業展開を支援。現在はASEAN・インドを含むクロスボーダーM&A・PMI、中国企業の日本市場展開も支援。
  • 厳 偉 氏(Wayne Yan) ― コーポレイトディレクション 上海オフィス 副総経理/日中食品経営研究会 発起人・主宰/FBIF(Food & Beverage Innovation Forum)日本研究首席戦略アドバイザー。ダイキン工業を経て2022年にCDIへ参画し、日系食品・飲料企業の中国事業を一貫して支援。
  • 岡 豊樹 氏 ― 一般社団法人 日中投資促進機構 代表理事・事務局長/みずほ銀行 理事。みずほ銀行(中国)行長・董事長などを歴任し、長年にわたり中華圏ビジネスの最前線で指揮を執る。
  • 内藤 靖統(モデレータ) ― ユーザベース Speedaアジア・インド事業統括。シンガポールを拠点にアジア・オセアニア・インド地域の事業を統括。
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