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Trend Reports

トランプ2.0における海外事業の課題

サマリー

本記事では、2025年2月4日にKPMGコンサルティングとスピーダ東南アジア(ユーザベース)で共催されたセミナー
「トランプ2.0における海外事業の課題~東南アジア事業とサプライチェーンの再考~」 の講演内容をレポート用に再構成したものをご紹介。
2025年1月20日に発足した第二次トランプ政権(以下、トランプ2.0)は、就任直後から多くの大統領令を発出し、保護主義的な色合いを強めながら、米国中心の政策を次々と打ち出している。アメリカ・ファーストを掲げるこの新たな政権の下、地政学的リスク、貿易政策、サステナビリティの転換は、東南アジアで事業を展開する日本企業にとって、どのような影響と対応を意味するのか。
本稿では、トランプ2.0がもたらす国際環境の変化をふまえ、東南アジアにおける事業戦略とその再構築のヒントを探る。

トランプ2.0における海外事業の課題ー東南アジア事業とサプライチェーンの再考ー

トランプ2.0、始動 ― 先鋭化する保護主義と関税への警戒

2025年1月、トランプ政権が再始動。「アメリカ・ファースト」のもと、経済ナショナリズムが一層強まっている。国際協調よりも二国間交渉を重視し、米国の利益に基づく政策判断が優先されている。

とりわけ注目されるのが、関税を交渉手段として用いる姿勢である。相互関税制度や輸入品への一律10~20%の関税導入が掲げられており、メキシコ・カナダなどFTA対象国を含む広範な対象に影響が及ぶ可能性がある。対米黒字の大きいベトナムやタイも個別制裁のリスクが高く、東南アジアからの輸出にとって重大な懸念材料だ。

エネルギー・EV・気候変動対策の転換

トランプ政権の再登板により、エネルギー政策は化石燃料推進へ大きく転換された。「Drill Baby Drill」「Frack, Frack, Frack」といった選挙戦中のスローガン通り、原油・天然ガスの生産拡大とエネルギーコストの引き下げを重視する姿勢が明確に打ち出されている。

EV(電気自動車)政策でも、前政権が掲げた「2030年までに新車販売の5割をEVに」という目標は撤回。IRA(インフレ削減法)に基づく排ガス規制や補助金制度の見直しも進められており、クリーンエネルギー関連のサプライチェーンには逆風が予想される。東南アジア諸国からの関連部品や原材料の輸出にも影響が及ぶ可能性がある。

対中政策がもたらす、機会とリスク

トランプ政権は対中政策でも再び強硬姿勢を取ると見られており、関税措置や安全保障面での輸出入規制が強化される可能性がある。これにより、中国からの生産移転を受けた東南アジアの受け皿化が進む一方、中国系企業との競争激化というリスクも抱えることになる。

また、人権問題を理由とした規制措置の活用も進む可能性が高い。米国は東南アジア経由の「迂回輸出」や強制労働に関する懸念を持つ製品の輸入を制限しており、トランプ2.0においてもDEI(ダイバーシティ、公平性、包括性)には否定的である一方、人権を貿易制限のツールとして用いる可能性がある。企業はサプライチェーン全体の透明性確保と人権リスク対応が求められる。


 広がる保護主義と東南アジア事業のこれから

「選挙の年」を経て:何が継続し、何が変化するのか?

2024年は世界各地で重要選挙が相次ぎ、政治的に大きな転換点となった。しかし、そこで明らかになったのは、保護主義・経済ナショナリズムが引き続き各国で勢力を強めているという現実である。

米中対立の文脈においては、東南アジアは従来「漁夫の利」を享受してきたが、トランプ2.0のもとではその立ち位置を維持することが難しくなっている。米国は中国からの迂回輸出ルートとしての東南アジアを警戒しており、地域全体が新たな規制対象となる可能性もある。

米国の新政権:東南アジアはどうなる?

トランプ政権は、米国の製造業保護と中国包囲網を重視する中で、東南アジア経済を迂回輸出の温床と見なしている。一律関税や個別関税措置により、特定国や産品が標的になる懸念がある。

今後、企業は自社の輸出構造やサプライチェーンが米国の政策的焦点に含まれていないかを点検し、米国市場への依存度や輸出戦略の見直しを図る必要がある。透明性やコンプライアンス対応がこれまで以上に問われる。

東南アジアの新政権:安定と混乱がもたらすものは?

インドネシアでは、安定した政権が高付加価値産業育成を軸にした国家主導の産業政策を推進している。市場アクセスを国内投資と引き換えに与えるなど、経済ナショナリズム的な政策が展開されている。

一方で、タイでは2024年の政権交代後も政治的な不安定さが継続し、ポピュリズム的な政策が顕在化しやすい状況となっている。両国は対照的な動きを見せながらも、共通して保護主義的傾向が強まっている点に注意が必要である。

今後考えるべき論点:今、東南アジア事業が考えるべきことは?

保護主義が広がるなか、企業は自由貿易を前提とした戦略を見直し、むしろ保護主義がもたらす「機会」を最大限に活用する視点が重要である。各国の産業政策を踏まえ、競争優位を確立するための現地投資や戦略的対応が求められる。

また、ASEANを一体の市場と捉えるのではなく、各国の制度や環境に応じた個別最適化が不可欠であり、制度変化への柔軟な対応力が将来の成長を左右する。


 機会としてのサステナビリティを事業へ落とし込むポイント

サステナビリティにおけるトレンドの変化

従来のサステナビリティは、投資家向けの情報開示を中心とした活動であったが、現在は企業の本業・事業活動そのものに踏み込んだ対応が求められている。ESGの観点からだけでなく、実効性ある戦略の一部として位置づけることが期待されている。

企業は、どのように自社のビジネスモデルを通じて社会課題と向き合うかを具体的に示す必要がある。

社会課題解決型ビジネスの潮流

「社会課題の解決」を謳う製品やサービスは増加しているが、その差別化には真の課題への理解が必要である。たとえば脱炭素と一口に言っても、排出源、削減目標、技術的な制約などは業種や地域によって大きく異なる。

表面的な解決策ではなく、相手方の具体的課題にリーチした提案を行うことが、競争優位性の鍵となる。

サステナビリティを事業へ落とし込む際の留意点

東南アジアにおいては、エネルギー供給や環境整備といった社会課題への取り組みが進む一方、それに伴う負の側面——たとえば大気汚染、人権リスク——にも向き合う必要がある。

企業が事業としてサステナビリティに取り組むには、収益機会だけでなく、事業継続性やリスク管理の視点が欠かせない。資源循環型経済(サーキュラーエコノミー)や人権デュー・ディリジェンスなど、多面的な取り組みが今後の成長を支える基盤となる。


スピーダASEAN経営企画の会とは?

スピーダ ASEANは、ASEANの「今」を知り、「未来」を描き、ビジネスを加速させるための、経済情報プラットフォームです。私たちは、ASEANでの事業推進を担う皆さまに向けて、アジア最大級のデータベースとセミナーを通じてご支援しています。ASEAN経営企画の会は、専門家の方をお招きして東南アジアの最新トピックや業界トレンドについてを深堀していくセミナーシリーズです。

定期的にオンライン・オフラインのセミナーを開催しておりますので、東南アジア地域に実際にお住まいの方、または他の地域から東南アジア事業を担当されており、東南アジア地域でのビジネスに携われている方はぜひご参加ください。

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