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経営者インタビュー

経営者に聞く「荏原製作所シンガポール久保田博通社長」 トップインタビュー

アジアと米国でのマネジメント上の気づきとは

内藤:次に、海外に進出している企業の課題とされがちな経営の「現地化」について伺います。香港と米国でのマネジメント経験が長かったと思いますが、人材のタイプや商慣習など、大きな違いがあったところはありますか?シンガポールとの違いも教えてください。

久保田:なかなか一般化するのは難しいですが、私の限られた経験から「あえて言うなら」ということでご理解ください。

香港人は帰属意識・愛社精神はなかったですね(笑)。当時、在籍1.5年くらいで退職していく人が多かった。香港に本土から移住して来た方たちはいろいろなバックグランドをもって来ていて、お金に対する執着が非常に強い。

よく言われるように、お金と家族・親族のみを信じている。営業という意味でも、ローカル営業スタッフは自分のネットワークの中から仕事を取ってくる。コミッションの割合の高い給与制度を活用して、数年内に営業実績を作って稼いで、昇給するか次の会社に移っていくような印象です。

堂々と給料交渉をしてきて、話がまとまらないと転職していく、という感じでした。

勉強になったのは、香港人の値段交渉と意思決定の仕方です。香港人は自分の条件を明確に持っていて「この条件なら買うよ、ダメなら買わん。どっちや?」といってこちらに意思決定を迫ってくる感じ。こちらが条件を満たせるならそこで即決。

一方で、日本人はちょっとズルいんですよね。買い手は、安ければ安いほどいいという姿勢で交渉して、絞れるだけ絞るし、できるだけ良い条件になるようにいろいろ注文を付けてくる。

その一方で、今度はちょっとやりすぎたかな、と思って条件を緩めてみたり。ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃ、する。大きく違うな、と感じました。ここで、香港流(華僑)の交渉術、意思決定術を学べたことで他の国に行った時の交渉でもあまり迷いがなくスムーズにできるようになったと思います。

米国人も、香港人とは違う意味で、帰属意識がなかった印象です。自身のロール&リスポンシビリティの範囲外のことはやらないですし、家族と過ごす時間のプライオリティが高いので定時に帰る。未達だからもうちょっと頑張ろう、ということはないかな。

また、日系企業だといっても本社が偉い、ということがない。日系企業って、本社の指示を現場に落としこみに行くことがあると思いますが、現地のスタッフは納得しないと従わない。本社も現地拠点も対等なんですよね。

シンガポリアンは比較的日本人に近いのかもしれない。当社にも38年働いている社員がいます。会社が40周年なのでほとんど創業時から勤務してくれていて。愛社精神とは違うかもしれないけれど、長く働いてくれている社員がたくさんいます。

(ただ、数年でローテーションして帰任していく日本人駐在員に対して、場当たり的に上手く取り繕う社員もいるかなと思います。)

日本企業の経営の現地化に向けた「マーケット・イン」と「アカウンタビリティ」

内藤:久保田社長にとって「現地化」とはどのようなものなのでしょうか。御社としてはどのような取り組みをされているのでしょうか。

久保田:「マーケット・インの姿勢」と「本社へのアカウンタビリティの発揮」が、現地化を進める上で大事だと思っています。

「マーケット・イン」とは、その土地の商習慣やビジネスチャンスに対するアイディアや意見を、現地のメンバーから吸い上げること。

そして、日本からあれこれ言われたことをインプットして言われたことをやるのではなく、逆に自分たちのアイディアを本社に発信していくこと。自らのアイディアで結果を作って「アカウンタビリティを果たす」こと。そんなやり方が理想の現地化だと思っています。

内藤:本社からマイクロマネジメントをしてしまう傾向があるということでしょうか。

久保田:日本企業は、海外の子会社に対して、細かく指示を出して、介入して、報告を求めたくなってしまう。重要なのは逆だと思います。現地のやり方をよく観察して、現地スタッフにオーナーシップと責任の意識を持たせるべきです。

一例ですが、本社と各国子会社の会議には、ローカルメンバーの事業部ヘッドを出席させています。私がローカルスタッフに資料を準備させて報告するのは簡単なのですが、彼らが経営報告の場に出席し、自分の言葉で自分で用意した資料や計画を発表することで、責任感が芽生えます。

彼らの意見を取り入れて、彼らが主体となってビジネスを動かしていくと、彼らもそれに対してやりがいが出てくる。そうやって、自分達で自分たちの事業を自らドライブしていくような感覚を身につける機会やチャンスを与える。それが現地化であり、事業の成長ドライバーになっていくと思っています。

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