経営者インタビュー
経営者に聞く 「日本航空 シンガポール支店 土橋健太郎支店長」 トップインタビュー
盛り上がるシンガポールからのインバウンド、ジップエアも新たな選択肢に
川端:シンガポールドルと日本円のレートは、2018年と今を比べると30円近くの差があります。影響は避けられないと思いますが、大幅に戻りひと山を越えた状況と思います。
土橋: 嬉しいことに、シンガポールから日本へのインバウンドのお客さまに多くご利用頂いています。インバウンドの客況は、国内線にもプラスに働いています。私の周りのシンガポール人の方でも、今年は2回、3回日本に行っているとおっしゃる方がおられます。もはや、珍しい話ではなくなりました。インバウンドのお客さまのお陰もありまして、ロードファクター(有償座席利用率)はコロナ禍前に戻っています。
JALグループのLCCであるジップエアは、コロナ禍の最中だった2021年9月7月、成田―シンガポール便が就航しました。そして、2023年夏期からは毎日運航となりました。現在は、JALは1日3便、ジップエアは一日1便運行していますので、JALグループとしてシンガポールから東京まで1日計4便が飛んでいます。当初は、JAL便とジップエア便が競合を起こすのではないかという懸念もありましたが、お客さまに上手に使い分けて頂いています。
例えば、ビジネス目的ではJAL便を使い、レジャー目的ではジップエア便とする。また、JAL便のエコノミークラスとジップエアのフルフラットの価格を比べて選ぶお客さまもいらっしゃいます。必要なサービスだけを選んで組み立てられるのもジップエアの魅力と感じて頂けているようです。
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地方創生への取り組み、シンガポールの根強い旅行会社の力
土橋:シンガポールからのインバウンドが増えていることは、JALの国内線にもプラスの影響が出ます。私たちは微力ながら地方創生にも貢献したい気持ちがあります。
SNSで注目を集めている観光地に行っていただくのも良いですが、リピーターのお客さまであればあるほど、羽田から国内線を使って、様々な日本の顔、もっと違う日本の様子を見ていただきたい。シンガポール支店でも、当地のお客さまや関係先に向けて働きかけをしています。
川端:どのような施策を打っているのでしょうか。
土橋:例えば、比較的席に余裕のある路線については、国際線から国内線の乗り継ぎとして割安運賃を提示したり、日本の地方自治体やその関係先の皆さまと共同プロモーションを実施したりといった施策があります。
なかでも、世界遺産などの”目玉”があるけれども、シンガポールのお客さまにはまだ知られていない地域などは、まだまだ施策を打つ余地があると思います。
シンガポールの旅行会社向けに、日本の地方を知っていただき親しんでいただくための研修ツアーを組んでいます。航空券販売やパッケージ旅行商品を扱う旅行会社のスタッフの方々に日本を体感していただくことが大切です。最近では、旅行会社さん数社を日本の地方都市にお連れしました。「面白いね」と感じてもらい、「新たな発見」をして頂くことによって、もっと日本の地方都市を販売していただけるようになるのです。
川端:最近は、各航空会社の公式ページで直接予約をしたり、価格比較サイトでチケットを予約したりする方も増えていると思います。そうしたなか、シンガポールでは旅行会社はどのような位置づけでしょうか。
土橋:シンガポールのお客さまは、ご自身で情報を集めて、航空券、ホテル、レンタカーなどを様々なサイトを通じてご自身で組み合わせて予約なさる傾向があるように思います。日本に比べて、ご自身で準備、手配するというお客さまの比率は高い。
そうしたなかでも、最近は添乗員無しの自由度の高い旅行形態が売れています。また、シンガポールの旅行会社さまのなかには、コロナ以降かなり勢いがある会社があります。インターネットで個人手配が便利な昨今においても、パッケージ旅行にも、まだまだしっかりしたニーズがあります。
当地で年2回行われる旅行博には旅行会社も出店します。ここでは、一般のお客さまが旅行商品をその場で購入できます。毎回、大盛況でキャッシャーでは行列ができています。このような商談と展示即売会的な旅行博は、私も日本や欧州では見たことがありませんでした。
川端:旅行会社という販売ルートは根強いものがありますね。家族3代の旅行など手配の数が大きい場合や、高齢の方がいらっしゃるグループでは特に需要がありそうです。
土橋:シンガポールでは特にスクールホリデーの時期、空港のチェックインカウンターに立っているとその傾向ははっきり見えますね。パッケージ旅行は根強いです。そして、ご自身で組み合わせる方もいらっしゃる。上手に棲み分けができているという気がしています。