経営者インタビュー
経営者に聞く 「JR東日本 東南アジア事業開発 大見山俊雄マネジング ダイレクター」 トップインタビュー
鉄道事業者としての本流がシンガポール事業の基礎。「安全運行」から醸成された信頼関係
川端:なぜ、駅ナカの第1号の展開としてシンガポールを選ばれたのでしょうか。鉄道というインフラを考えれば、他の国で展開するという選択肢もあり得たのではないでしょうか。
大見山:シンガポールは他国と比較して、鉄道網が成熟している上に、鉄道事業者との対話が進んだという事情があります。シンガポールでの事業展開は、駅ナカそのものを考える前に、私どもとシンガポール側の間に鉄道事業者同士としてのコミュニケーションがしっかり取れていたという下地がありました。シンガポールにはSMRTという鉄道事業者があります。私どもJR東日本のシンガポール事務所は10年前に立ち上げましたが、その前からコミュニケーションの積み重ねがあり、その後の駅ナカ事業に発展しています。
まず、シンガポール当局との関係は鉄道の安全運行から始まりました。以前、シンガポールのMRTはトラブルが多く、その対策のために私どもが支援をしてきたという経緯があります。シンガポールの鉄道行政は監督庁にあたる陸上交通局(Land Transport Authority、以下「LTA」)と事業者として運行を民間委託されたSMRT Corporation(以下「SMRT」)に分離されています。業界では「上下分離」と呼ばれるものです。
LTAやSMRTは鉄道の運行トラブルをなんとか減らしていきたいという想いがあり、私ども経験や技術でサポートをしてきました。こうした鉄道事業者としての本流のお付き合いを通じて、良好な関係を築いてきた経緯があります。その上で駅ナカ事業へとつながっていきます。
川端:日本の鉄道の安全性と正確さは世界でも断トツです。そうした蓄積がシンガポール事業で大きく生き、SMRTとの信頼醸成の基本となった。その上での攻めの部分、つまり、新たな収益源としての駅ナカ事業が登場してきたと理解しました。
大見山:その通りです。今、外から見ると駅ナカ事業が話題になりやすいです。しかし、シンガポールでのビジネスは、駅ナカ事業が先にありきではありません。その前段階として、安全面でのサポートという信頼関係が作られていたことがとても大切だったのです。これを踏まえないと、なぜ突然、駅ナカをやるのか、と見えてしまいます。
SMRTとの関係は非常に良好です。監督庁のLTAも含めて自発的かつ積極的に勉強をされていました。私どももそれに誠実にお応えする。こうしてコミュニケーションを通じて信頼関係が作られてきました。