経営者インタビュー
経営者に聞く 「JR東日本 東南アジア事業開発 大見山俊雄マネジング ダイレクター」 トップインタビュー
なぜ、鉄道事業者がシンガポールでコワーキングスペースを始めたのか
川端:駅ナカの前から始めている試みとしてのコワーキングスペースは、新しい挑戦に見えます。
大見山:日本でも形態がずいぶん違いますが、JR東日本は「ステーションワーク」という事業を展開しています。移動の合間を活用して仕事ができるブースを駅や駅付近の建物に設置しています。コワーキングスペース事業につながる下地は日本にありました。
ただ、駅でのブース形式とコワーキングスペースは、ビジネスのあり方や運営など次元が大きく違います。そして、私どもの思いとしては単なる仕事場以上のところを目指したい。そこでコワーキングスペースを通じて、シンガポールの企業と日本の企業を結びつけるマッチング・プラットフォームの形成にも取り組んでいます。この発想のなかには、マッチングしたシンガポール企業に日本に来て頂いて、駅舎の場で貢献していただこうという考えも含まれます。
川端:日本の連れて行こうという発想がユニークですね。通常、日本の企業はシンガポールに進出して現地でいかに収益を上げるかと考えます。シンガポール企業に駅舎を活用して頂くという発想は、JR東日本ならではの強みですね。コワーキングスペースでマッチングをするという発想はどこから生まれたのでしょうか。
大見山:One&Coの事業パートナーである北海道のCo&Coとの話から始まりました。Co&Coと様々な議論してシンガポールで一緒にやりましょうとなりました。マッチングは、そのやりとりのなかで生まれてきた発想です。JR東日本は駅ナカ事業には自信がありますが、コワーキングやマッチングでは後発部隊です。そのため、自分たちが直接入るよりも、ノウハウや情報を持っているCo&Coとのパートナーシップを活用していくという選択を採りました。
SPEEDAも入居している、明るく開放的なOne&Coのコワーキングスペース 窓からは海の景色も望める(SPEEDA ASEAN撮影)
川端:シンガポール企業を日本に連れて行った事例は、すでにあるのでしょうか。
大見山:テストマーケティング段階ですが、Crown Technology Holdingsが開発した次世代型全自動コーヒーマシーンのEllaを東京駅にもっていきました。東京駅といえば、日本の一等地の中の一等地です。しかも、駅舎のなかでも一番良い場所に出て頂き、珍しさも手伝って様々な反響を頂くことができました。最初のプランでは、テストマーケティングの後に100台ぐらい一気に導入するという計画を持っていました。しかし、日本では規制など様々な問題が発生してしまったのです。
川端:具体的にどのような課題が生じたのでしょうか。
大見山:多くの問題がありましたが、例えば、Ellaは自動販売機なのか飲食店なのか、という論点です。自動販売機であれば規制はほとんど問題になりません。しかし、飲食店となれば保健所への届け出や衛生管理責任者を配置するなど、様々な規制の対象となります。これはとても大きな違いでした。日本ではもっと洗練させた方法で展開する必要がある事を学びました。
ただ、この経験は違う形で生かすことができました。10月からはフィリピンでEllaが展開される予定です。
JR東日本グループ 21年11月26日 プレスリリース情報をもとにSPEEDA ASEANにてデザイン加工
川端:日本の場合、成熟した先進国であるが故に、規制の問題は確かに重要な視点です。それでもなお、こうしたマシーンを日本の、しかも、東京駅の真ん中に持ってきたという意義は大きいと思います。少子高齢化での労働力不足は、ますます深刻になるリスクがあり、自動化は避けられません。東京の真ん中だけでなく、Ellaがあれば、他の人口が少ない地域でも人間のバリスタが入れたぐらいに美味しいコーヒーが飲めるようになるかもしれません。また、他の分野における自動化に向けた刺激となる可能性もあると思います。一つ一つの試みが日本社会における課題を解決するブレイクスルーとなることを期待しています。