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経営者インタビュー

経営者に聞く 「JR東日本 東南アジア事業開発 大見山俊雄マネジング ダイレクター」 トップインタビュー

ロータリークラブの活動で地域の懐に入り込む

川端:大見山さんは当地にこられて、プライベートはどのように過ごしていらっしゃるのでしょうか。

大見山:ロータリークラブでの活動をしています。例えば、低所得者の方や、学業からドロップアウトしてしまった方がシンガポールにもいます。そうした困難な状況に置かれている方々を対象に、ロータリークラブでは米や食べ物を配る活動をしています。

こうした活動を通じて、地域社会の様子を垣間見ることができます。実際に、重い米をお母さんが受け取って大変そうにしていてそれを見ていても家族のだれも助けに来ない、という場面を目の当たりにしました。所得やお金の問題だけでない、コミュニティが抱える課題が見えてきます。
こうした課題は、シンガポール政府は切実に考えています。ロータリークラブでの活動から社会的な課題を学んで取り組むことは、仕事で駅ナカを通じて手がけているコミュニティ形成の視点とも一致します。また、ロータリークラブでは元受刑者の方の社会復帰支援もしています。先日は、One&Coでもどのように支援していくべきかと議論するイベントも実施しました。

川端:非常に意義があると思います。シンガポールは急速な発展で世界有数の都市国家になりましたが、課題も抱えている。そこに企業や個人としてどのように貢献していくかという視点はとても大切なことだと感じました。

大見山:多くの企業は、シンガポールでどうやって儲けるかということに集中しています。これは当たり前のことなのですが、私どもはどちらかというと後発部隊です。では、JR東日本はどのような形でシンガポールに貢献しながら、ビジネスをやっていけるのだろうか。儲けるだけでは相手にされなくなるという気持ちもあります。

川端:お話を伺ってシンガポールのセイフティネットとして社会的な貢献をしつつ、息の長いビジネスを作りつつ、日常生活に溶け込んでいく、そのようなイメージを持ちました。

大見山:それはまさしくJR東日本が得意とするところなのです。私どもは生活に密着した接点を大切にしていかなければいけません。海外でビジネスをするには、儲け方だけでいいのかと常に自問しています。

シンガポールでは、コロナのおかげで色々と気が付いたという側面面もあります。コロナ対策ではサーキットブレーカー(セミロックダウン)など、一時期、ビジネスではほとんど動けませんでした。そうしたなかでも、社会的にニーズの高いボランティア活動や社会貢献活動は、早めに再開が認められていました。先ほどのような低所得家庭を訪問支援したり、外国人建設労働者が暮らすドミトリーにも行って支援活動をしたりしてました。ここまで懐に入っていくと、外からだけでは見えないものが見えてくるのです。

歴史観を持って人や国と接していく

川端:大見山さんのビジネスパーソン個人としての価値観も伺いたいと思います。これまで大切にしてきた価値観を教えて下さい。

大見山:歴史観を持って人に接することが必要だと思っています。ものごとの背景をよく勉強した方がいいというのが私の主義です。

特に、シンガポールとの関係において日本は、戦争の時期に様々なことをしてしまった事実があります。そして、その後、日本企業が進出して、親身に技術を教えてきた。これは欧米系のメーカーはあまりやらなかったことです。日本人は、現場に出て行って工員の方々や技術者の人たちにも丁寧に教えていった。今、私どもがこの地でビジネスができているのは、そうした先人の人たちの努力が土台にあります。日々、こうした歴史を感じながら仕事をしています。

川端:共感するお話です。シンガポールでは日本の占領期の話は一定の年齢以上の方々には生々しい話であるし、若い人たちもお爺ちゃん、おばあちゃん、その上の世代が大変な思いをした話を聞いています。これは、日本人が真摯に向き合っていかないといけない歴史です。

一方で、日本企業が進出して現地経済や産業の発展に貢献してきたことも事実です。未来を考えるためにも、歴史を知ることは大切なことだと思います。そして、製造業中心だった日本企業も、新しいタイプで進出するようになりました。そのうちの一つがJR東日本による鉄道の安全運行支援だけでなく、駅ナカ、コワーキングスペースといった事業だと位置づけられると思います。

大見山:最近、シンガポールの方々は日本について、食や文化などに強い関心を持っています。これは良いことですが、そこだけにとどまらない関係を作っていきたいと思います。そのためには、何かこの国に貢献していかないといけないと常々考えています。

川端:本日は大見山様の経営哲学に触れるとともに、御社の事業の背景にある本質的な部分についても語っていただき、大変ありがとうございました。今後もシンガポールの発展と御社の事業展開に注目したいと思います。

取材日:2023年10月5日
本記事に記載の内容や所属・肩書は、取材時点での情報になります。

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