経営者インタビュー
経営者に聞く「村田製作所シンガポール 泉谷寛マネジング・ディレクター」 トップインタビュー
現地目線で取り組む「3層ポートフォリオ」、新規事業創造の試みの要諦
内藤:交通IoTや自動車、スマートビルディングなどいろいろなところで、貴社のコア製品であるセンサー系の部品が使われています。新たな事業の機会の創出には、どのように取り組んでいるのでしょうか。テーマ選びと組織体制について教えてください。
泉谷:ASEANとインドでは、「社会課題解決に繋がるテーマ」に取り組んでいます。最終的には社会貢献価値をいかにお金に変えていけるか、色々と検討しています。
例えば、インドネシアで実施しているトラフィックカウンタは、日本のチームが東南アジア各地の現地法人の方と一緒に取り組んでいます。社会課題解決のために通用するものができると、将来色々なところに広げられる可能性があります。
場合によっては、リバースイノベーションのような形で日本など先進国に持ち込むことも視野に入ります。また、農業×IoTの領域にも注目しています。インド、ベトナム、タイなど農業の盛んな国で、どのような取り組みができるかですね。
川端:例えば、アグリテックなどは、貴社の技術やノウハウを生かして期待される産業の一つと言えそうです。
泉谷:そうですね。これからインド、その後は、アフリカと来ると思います。当社はハイエンドが得意分野で、むろん、インドやアフリカにもハイエンドを求める富裕層はいるでしょう。スマートフォンやオートモーティブが該当します。
しかし、IoTでは必ずしもそうではありませんそのため、ハイエンドというよりはどうソリューションに繋がっているかという部分が占める割合が大きくなります。
ここの力を磨いていくことが我々の将来の幅を広げることになるのかなとみています。
川端:この動きは御社が掲げている、3層ポートフォリオの3層部分でしょうか。御社は、今後も業界を牽引するイノベーターとして価値を生み出していくための経営として、3層構造のアプローチを掲げています。
1層目がコンポーネントの標準品ビジネスで基盤事業として成長を牽引し、2層目がデバイスやモジュールの用途特化型ビジネスとして事業領域の拡大と新たな付加価値を創造する。
そして、今後の非連続な将来のコア能力の構築として3層目で新たなビジネスモデルの構築です。(注:3層ポートフォリオとは)
泉谷:まさにそうです。ただ、3層目に向けた挑戦は、基本的な考え方を変えなければ行けません。営業には、お客様のエンジニアに売り込んで我々の商品を採用していただく「プロモーション」のステージと、注文が来て部品を納める「刈り取り」のステージと、2種類があります。
東南アジアは圧倒的に後者の刈り取りが多く、前者のプロモーションは少ないのです。そのため、もともとシンガポールにいるメンバーは、お客様にプロモーションする活動に慣れていないことが多いのです。
そのため、3層目のビジネスを立ち上げには、全く異なる発想が必要となります。この新たな領域への挑戦に取り組めるできるメンバーをアサインして、少しずつでも前に進んでいけるよう取り組んでいます。
出所:村田製作所ウェブサイト「ムラタの経営戦略」Vision2030(長期構想) 「成長戦略① 基盤事業の深化とビジネスモデルの進化」より
https://corporate.murata.com/ja-jp/company/business-strategy/vision2030/growthstrategy1
https://corporate.murata.com/ja-jp/company/business-strategy/vision2030/growthstrategy1/layer3
川端: 3層目を実現するための、新しい事業のアイデアについてはシンガポールの現地サイドから提案して本社と相談して進めていくイメージでしょうか?
泉谷:それもありますし、日本のチームで進めているものもあります。規模感は日本のチームの方が圧倒的に多いです。
しかし、ローカルでしか思いつかない視点がありますので、シンガポールでは新たにニュービジネスクリエーションチームを作って活動しています。日本人は1人いますが、他はシンガポール人をはじめとする多国籍チームです。日本側との壁打ちもしています。
内藤:現地雇用のナショナル・スタッフの皆さんに期待する部分は大きいと思います。具体的にはどのような点を期待していますか?
泉谷:例えば、インドの農家の実態について我々はよく理解していません。ナショナル・スタッフは、そのようなところにもしっかりと目が向いていて、見えている範囲が全然違います。
あとは、新型コロナウイルスのデルタ株が広まったときは、他社も含めて日本人駐在員は帰国してしまいました。こうしたとき、日本人が中心で新規ビジネスをやっていたのでは、一瞬で仕事が止まってしまうため、ナショナル・スタッフの存在は重要です。
他には、人脈の広がりも大切な要素です。三層部分を当社だけでやりきるというのは、ほぼ無理で、様々な企業や人々と複雑に連携しなくては実現できません。
そのため、ナショナル・スタッフの活躍には物凄く期待しています。先ほど申し上げたようにシンガポールは刈り取り型の営業が多いため、売上げとしてはアセアンの重要度は上がっていますが、プラスアルファのプレゼンスが必要です。
そのためには、ローカル発信の事業が生まれて来るとインパクトが大きいと言えます。今後、面白い発表ができるようになれればいいなと思っています。