Skip to content

経営者インタビュー

経営者に聞く「村田製作所シンガポール 泉谷寛マネジング・ディレクター」 トップインタビュー

真の現地化に求められるもの

川端:ここまでの議論は、日系企業の組織の現地化という課題にも関わりがありそうです。『現地化』の在り方についてはいかがでしょうか。

 泉谷:ナショナル・スタッフで昇進していく人は、日本人マネージャーの指示を的確に理解して、忠実に実行していくという方が多かったと思います。しかし、今では求めるものが変わってきました。

それは、何が必要かということを考えて自分で行動・判断して決断していくという人材なのです。こうした人材を増やすためには、情報共有をたくさんすることが大切です。

例えば、「指示」ばかりではなく、情報を「共有」して考えてもらうことがあるでしょう。「共有」を通じて経営層や事業部単位での方針をきちんと理解してもらい、自分たちが今何をしなくてはいけないかを考えたり、クライアントや社会に発信したりすることに力を入れています。

川端:ナショナル・スタッフの方々が自ら動けるような形で、情報のギャップをなくすというのは非常に重要な部分ですね。

泉谷:当社社長の中島もよく言う「自律分散経営」を実践するためには、ナショナル・スタッフも全体最適で考えられなければいけません。

そのためには、情報が非常に重要です。情報を私たちから与えるだけでなく、自ら情報を獲得したり、横のつながりでの情報交換をしたりする機会を提供する仕組みを整えることも大切です。

ちょうど、コロナ明けという時期に入りましたので、このような機会はどんどん増やしていきたいですね。限られた予算のなかでも、ナショナル・スタッフがビジネストリップをできるようにしています。

また、「現地化」といった時に、単純にマネジメント層にナショナル・スタッフが多ければ良いとは思いません。鍵となるのは、全体を知るということとなのです。そのためには、自分たちがどのぐらいのレベルにいるのか、を知る必要があるます。

他社や他工場や他拠点と交流をすることで、比較でき、自分たちのレベル感を理解し、参考にしてさらに研鑽に励むことが出来ます。

ずっとここだけをみている、だけでは「当たり前」になってしまいますので、刺激を受けてさらに改善しよう、上げていこうという人材が増やしていくことがとても重要なことになります。

オートノミー(自律性)に加えて、全体を知ることと、自分たちがどれくらいのレベルにあるのかっていうのを知るという3つの要素が全て整うことで、真の「自律分散」を実現できると思っています。こうしたことを実現していくことが、ゆくゆくは現地化に繋がる、そういう風に思っています。

川端: こうした仕組み作りは、本社から派遣されている日本人の方の非常に重要な役割の一つと言えますね。

泉谷:そうですね。私が、ある他拠点のナショナル・スタッフ幹部に「どうして君の考え方はそんなに変わったの」と聞いたら、他拠点に行った時の経験をこんな風に教えてくれました。

「実は、X拠点に行って衝撃を受けたのです。自分たちの拠点よりも賃金水準が低い国なのに、色々な工夫をしていて水準がとても高いことを目の当たりにしました。これは、自分たちは負けられない!もっともっとレベルの高いことをしなければいけないと感じた」、と。

これは、1人だけでなく、異口同音で聞いている話です。そして、考えが変われば、行動が変わってくる。

川端:とてもユニークな議論だと思います。技術論や商品の質が大切なことはもちろんですが、どう振る舞うかによって圧倒的な違いが出てくることになりますね。

リモートワークが普及しましたが、それでもやはり、現地に行かないとわからないことがあることを示す良い事例だと思います。一、二週間滞在し、現地の拠点の人たちと一緒に仕事をして、日々議論をしていると、なるほど、という話が色々と出てくることが想像できます。

インド市場のポテンシャル

川端:ご担当の地域では、インドでの業績が徐々に伸びています。インドも含め、特に重点分野や重点国はどこにあるのでしょうか。

泉谷:昨今の情勢を受けて、様々なお客様の工場が中国からシフトしています。そのシフト先としての一つはベトナムで、もう一つがインドです。これがビジネスでの伸び分に当たります。

ベトナムのハノイの周辺にもたくさんの中国企業や韓国・台湾企業がありますし、インドもAppleなど色々な会社がサプライチェーンを持ってきています。

今後は、インドの地場のTataMahindraといったメーカーがどんどん展開をするでしょう。彼らはEVを作っていますので、当社としても大きなビジネスチャンスがあると感じています。

加えて、当社の売上げで割合の大きいコミュニケーション関連のデバイスでは、インドでは5Gのベースステーションが増えていきます。

今後は、インド地場企業も手がけていくでしょうから、我々に対するニーズも増えていきます。インドは一番注目している市場ですし、間違いなくこれから伸びますので、リソースの充当は大きく考えています。

川端:貴社をグローバルで見ると、中国の売上は当然大きいというなかで、今後、インド、東南アジア、アフリカといった地域も伸びると、ポートフォリオのバランスが非常に良くなります。

昨今、地政学リスクが高まるなかで、万が一、有事やなど大きな動きで、ある市場が打撃を受けても、他の大きな市場がある、多様な市場を抑えているという状況ができていると、しなやかに強い組織になりますね。 

泉谷:お客様には、地政学的な理由でサプライチェーン複線化の動きがみられています。一方で、中国のサプライチェーンも大きく大切です。我々としては、しっかり両方に入っていくということが大切です。

そして、これから、各地の現地企業が我々のお客様として大きくなると思いますので、このチャンスはしっかりと獲得していきたいです。 

あなたにおすすめのコンテンツ