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経営者インタビュー

経営者に聞く 「NECコーポレーション(タイランド)栗原伊知郎社長」トップインタビュー

タイ法人の経営

藤田:タイ法人の社長として、直近はどのようなご状況なのでしょうか。

栗原:まさに今、私の会社員人生の中で、立場的にも一番苦しい、どうやって乗り切るかという局面です。

藤田:詳しくお伺いできますか。

栗原タイ市場は、アジアの中でも一番長く続いていて、歴史があります。NECタイができたのは03年ですが、拠点自体は昔から複数ありました。駐在員事務所ができたのは62年です。その後、生産工場や量販品の販売法人ができて、それらを統合する形で現地法人が立ち上がりました。私はちょうどその立ち上げの直前にタイに来て、統合業務に携わっていました。

直近では市場環境が厳しくこれまでハードウェア販売をメインとしてきましたが、中国勢の台頭など競争環境の激化もあり、状況が厳しくなりました。ソフトウェア領域への転換を図っている中ではありますが、依然ハードウェアが中心のNECタイは厳しい状況です。現在、構造改革に取り組んでいるところです。

藤田:具体的には、どのようなアクションを取られているのでしょうか。

栗原:新たな成長軌道に乗せないといけないので、非常に頭を悩ませています。当時は、NEC製品を売るだけで安定して利益を出せていたので、逆に危機感を持てず、ずっと同じポートフォリオで続けてしまっています。過去の赴任時と事業の中身が変わっておらず、何も新しいことを始められていない状況には私も驚きました。

藤田:他の国ではまた違う状況なのでしょうか?

栗原:他の現地法人は安定しているところが少ないので、新しい事業の柱を作るべく様々なチャレンジをしているところが多いです。例えばインドネシアは、こういうことをやってみたい、というアイデアが社員から上がって来ていました。タイはそういったことがなく、これまで日本人のガバナンスが強すぎ17年はたからなのか、タイの国民性なのか、計りかねているところはありますが、保守的なところは大きいと感じています。

タイは安定していたが故に、逆に新規事業に出遅れてしまった部分があります。RHQからも、新しい事業を立ち上げないとタイはこのまま沈んでいく、と言われました。実際に、過去、タイ社内でタスクフォースが組まれたこともあったようでしたが、成果が出せていませんでした。

藤田:そうした中で、まずは実情をつかむところから進められたと。

栗原:そうです。現地メンバーに話を聞いてみると、新しいことをやらないといけない、という気持ちは皆持っていることが確認できました。ただし、行動が少ない。保守的な人が多いと感じています。スタートアップのユニコーンが他国に比べてタイでは育っていない事実もあります。

藤田:それは何故だとお考えですか?

栗原:安定して利益が出る王道案件に人員が割かれ、新しい取り組みへのメンバーアサインが重要視されてこなかったからです。現地メンバーにとっても、既存の営業数字を稼ぐ方がボーナスを貰える、という仕組みだったので、結局誰も新しいことをやりたがらないのです。これではチャレンジが進まないので、新しいことだけをやる事業開拓チームを立ち上げました。

ヘルスケアやロジスティクス、デジタルファイナンス、プロパティ関連など、ITを使った様々なアイデアが出てきていて、もう少しで形にできそうなところまで来ています。

藤田:そのチームの人選には、栗原さんが直接関わられたのですか。

栗原:はい。まさに先ほどお話ししたことですが、事業開発チームへのアサインを打診すると『左遷ですか』と言った社員がいました。新しい事業をやるのは窓際族、というイメージが根強くあったのです。嫌がる社員もいたので、会社が新しい事業を求めていて社長が率いるチームなので、将来のNECタイを支えるためにも是非エースに来てほしいのだ、と伝えて説得しました。

藤田:タイでそうしたマネジメントに取り組まれ、他国との違いは感じられましたか?

栗原:感じました。コロナが流行り始めた頃の話ですが、在宅勤務を命じるとインドネシアでは社員が皆喜んで帰っていったのです。ところが家にインターネット環境がない人も多く、いざ在宅してみるとオンライン会議ができない、ということがありました。そのため、会社から補助を出す制度ができて、社員の家にネット回線を敷きました。プリンターは流石に全員には買えなかったのですが、決まった社員の家に設置し、そこから運転手を使い書類をデリバリーするなど、後追いで出てきた問題に対し、自主的に解決策を見出してくれました。

藤田:インドネシアでは、解決のための提案や要望がメンバーから出てくるのですね。

栗原:ところが、タイでは皆、在宅勤務をしないのです。家にプリンターがないからと言って書類をプリントアウトしに来たり、上司のサインをもらうためだけに会社に来るのです。今までやっていたことをそのまま継続しようとするのです。インドネシアでは制度を変える方向に話が進みますが、タイでは制度を変えず自分を犠牲にしてしまう人が多いのです。

藤田:違いがとてもよくわかるお話ですね。スタートアップが生まれない背景にも遠因がありそうです。

栗原:タイは財閥がとても強いので、スタートアップが出てきても潰されたり吸収されたり、ということもあるそうですが、やはり国民性の部分が大きいと思います。

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