経営者インタビュー
経営者に聞く 「NECコーポレーション(タイランド)栗原伊知郎社長」トップインタビュー
藤田:インドネシアでは、スタートアップはどのようにみられていらっしゃいますか。
栗原:法制度が緩く、賢い人がグレーゾーンを突いて新規事業を作り出すのです。GOJEKが良い例ですが、政府は市民権を得ているサービスにはNOと言わないので、後追いで制度ができます。
藤田:おもしろいですね。
栗原:タイ社内もだいぶ変わってはきましたが、まだまだ過去のカルチャーは根強く残っています。新しいことをやる時はリスクがつきものですが、コーポレート側のファイナンススタッフに、リスクがあるからとNOを出されると諦めてしまう人が多いです。どうリスクヘッジするかを考えないといけないのに、ダメと言われたらそこで考えることを止めてしまう。新しいことにチャレンジしないと、というマインドの醸成に心を砕いています。
この間、キックオフを実施したのですが、前期と同じことを話すのはおもしろくないので”自分の新しいチャレンジ”について発表するよう指示しました。無いなら発表しなくていい、とわざと伝えたのですが、新しいことをやっていないので発表しないと言ってきた部長がいました。「社内で啓蒙していることなので取り組んでほしい。今やっていなくても、こんなことをやりたいという未来の話でもいい」と説得して発表させました。
藤田:根気強くコミュニケーションを取られているところに、栗原さんらしさを感じます
栗原:私だけが一生懸命頑張っても限界がある、と思っています。今230人ほどの社員がいますが、全員が10%効率アップすれば23人分のパフォーマンスが得られるわけです。私がどんなに働いても23人分の仕事はできないので、ローカルスタッフの皆さんに、いかに効率良く気持ちよく働いてもらうか、を考えるようになりました。
皆のやる気を引き出して盛り上げること、環境を整えてモチベーションを上げることが私の仕事だと思っています。現場で何に困っているかなどをヒアリングするために、2つの新しい取り組みを始めました。
藤田:とても興味があります。
栗原:1つめは、「コーヒーモーニング」です。オンライン上の集まりで、出席の強制はせず軽いノリで始めたものなのですが、皆とシェアしたいことや業務上リマインドしておきたいことなど、在宅勤務で不足しがちなコミュニケーションを補うために話してもらっています。私の方からは、他部署の動きや事例の共有、RHQで聞いた他国での取り組みなどを伝えています。2つめは「タウンホールミーティング」です。決まったテーマで何かをやるというものではなく、全従業員を15〜20人程度のグループに分け、全10回実施しました。
そこでは、改善したいことや困りごとなどをヒアリングしているのですが、1人1回必ず発言すること、というルールを設けています。上司がいると発言しにくくなると思い、メンバーと上司は同じ回にならないようなグループ分けを人事に依頼しました。そこで出たコメントを元に新しいレギュレーションを作るなどして、声を上げれば会社は動いてくれる、というところを見せました。
藤田:風通しが良くなりますね。
栗原:社長が首を突っ込んでくると嫌がる現場は多いと思いますが、「ああしろ!こうしろ!」とお尻を叩くのではなく、困りごとを吸い上げるために声をかけています。直属の上司に言うとNGを出されることが多いらしく、私から言えば誰も反対しないので(笑)、少しずつ社員の希望を叶えていっています。
藤田:発言が形になると、社員の方も手応えを感じますよね。
栗原:他にも、タウンホールミーティングをきっかけに人事制度が変わりました。昇格基準のひとつにTOEICスコアがあったのですが、フィールドエンジニアで、対人スキルもあり優秀なのに、TOEICスコアだけが足りず昇格できない社員がいました。英語力が必要かどうかはポジションによるので、本社人事に相談しました。
日本でも一時期TOEICスコアが昇格条件に課されたことがあったそうなのですが、ポジション次第とのことで今はなくなっています。他の現地法人でも、英語力を昇格条件としているところはないと聞いたのです。そのため、英語が不要なポジションを精査し、昇格条件からTOEICを削除しました。
藤田:実情に見合った制度へと変わったのですね。
栗原:これもマネージャー層としか話していなければ気付かないことだったので、タウンホールミーティングの成果だったと思います。
藤田:現地のメンバーが、当初は「言っても仕方ない」と感じていたところからすると、とても大きな変化ですね。