経営者インタビュー
経営者に聞く 「NECコーポレーション(タイランド)栗原伊知郎社長」トップインタビュー
栗原社長の価値観
藤田:もう少し、栗原さんの価値観が形成される経緯をお伺いしてもよろしいでしょうか。例えば、最近の象徴的な成果からお伺いしても良いでしょうか。
栗原:インドネシアの社長になった18年にアジア競技大会という大きな国家イベントがあり、そこでスタジアム関連など大きな案件を取れたことで、NEC社内でも成功事例として取り上げてもらいました。これは、16年から大会の開催を見据えて蒔いておいた種が実を結んだ成果でした。
藤田:好調だったのにそこへコロナが来てしまったのですね。
栗原:そうですね。コロナで環境が悪化している中で、さらにタイへ赴任するというふたつの変化が重なったことがありました。やはり現地赴任すると新しい役割、新しい生活があるので、どうしても浮き沈みは激しくなりますね。最初の2〜3年は勉強、修行の時期だと思っています。3年ぐらい経つと現地で自分なりの人脈ができてマーケットの状況や競合もわかってくるようになります。そこから自分なりの戦略ができて、実績を作る楽しみができてきます。
藤田:そうした浮き沈みがありながらも、根っこで大切にしていらっしゃるのはどういった点でしょうか。
栗原:ビジネスは、人ありきなのですよ。特にアジアはそれが強いと思います。NECがどんなに良い製品を持ってきても、お客さんとの関係がしっかり構築できていないと売れません。
藤田:栗原さんが人を大切にされているというのは端々から感じます。
栗原:社長になると、自分の成功だけを追うのではなく、社員をどうやって成長させるかも考えないといけないと思っています。組織としての目標に向かっているという姿勢が大切だと考えます。
藤田:そのようなお考えに至ったのは、過去のご経験やご両親の影響などからでしょうか?
栗原:最近、社内研修などで内省をすることが多いのですが、自分で物事を進めるというよりは、自他ともに認める調整型であるという自己認識に至っています。3人きょうだいの真ん中で、姉と妹に挟まれてきました。結果、喧嘩になると絶対負けるのですよ。なので、できるだけ争わずうまくバランスを取る、最適解を探す、というのを小さい頃からずっとやっていましたね。大学時代は野球サークルに入っていたのですが、レギュラーを獲って活躍するのではなくベンチウォーマーでした。飲み会では主役でしたが(笑)
藤田:まさに盛り上げ役ですね(笑)
栗原:会社に入っても調整役が多かったので、カリスマ社長のようにぐいぐい引っ張るよりは、みんなと一緒に頑張る、というイメージですね。
藤田:そうしたスタイルに落ち着いたタイミングはいつでしたか。
栗原:インドネシアの社長になる前あたりですね。部長クラスになると、社内のリーダーシップ研修で強み弱みの洗い出しなどを行うのですが、やはり同じような結果になるのです。それで調整型を強みにしよう、調整型のリーダーになろうと思いましたね。
藤田:今回の構造改革については、調整は難しいのではないでしょうか。
栗原:そうですね。今まではなるべく敵を作らないやり方でやってきましたが、今回は、反対を受けてもやらざるを得ないと思っています。やはり会社として利益を追求しないといけないので、RHQと相談しながら、この危機を乗り切りたいと思っています。
藤田:そうした難しい局面においても、人そのものや現地の事情を大切にされる栗原さんだからこそタイの方にも理解を得られているのではと感じます。
栗原:先にお話ししたように、発展途上国へ思い入れがあったことが大きいと思います。父が商社勤務でアジアによく出張に行っていたので、海外の中でも特にアジアに憧れがありました。アジアの感覚を理解しているという自負もありますし、アジアに対する愛着はとても強いです。ここまできたら逆にアジア以外やりたくないと思っています。
藤田:発展途上国のインフラに貢献、という思いは変わっていらっしゃいませんか。
栗原:ずっと変わらないですね。その中でも特にインドネシアとタイは自分を育ててくれたところなので、希望通りにずっと変わらず担当させてくれているNECには感謝しています。アジアの人のためにもっと貢献したい、還元したいという気持ちでこれからもやっていきます。
藤田:貴重なお話をありがとうございました。
取材日:2023年3月9日
※インタビュー記事に記載の内容や、登場人物の所属・肩書は、インタビュー時点での情報です。