経営者インタビュー
経営者に聞く「東芝アジア・パシフィック社 橋本和俊マネージング・ディレクター」トップインタビュー

ASEAN経営者インタビュー
「経営者に聞く」 インタビューシリーズ
スピーダASEANでは、ASEAN市場で挑戦している皆さまを、経済情報とコミュニティ作りを通してご支援しています。
「経営者に聞く」インタビューシリーズでは、ASEAN地域で事業展開する日系企業の代表者の方々に、ご自身の経営哲学や信念、海外事業経営の醍醐味(挑戦の難しさと面白さ)をお伺いし、ご本人と会社の魅力を読者の方々にお届けする企画です。
今回は、スピーダASEAN CEOの内藤靖統とマーケティングの武藤が、東芝アジア・パシフィック社 マネージング・ディレクターの橋本 和俊氏にお話を伺ってきました。
150年の歴史を背負い、ASEAN市場での成長を加速
ー 東芝アジア・パシフィック社の事業概要及びシンガポール拠点の位置づけについて教えてください。
橋本 和俊氏(以下、橋本氏):東芝グループは2025年に創業150周年を迎えます。
東芝の社名は元々株式会社芝浦製作所と東京電気株式会社2つの会社が1つになり、東京芝浦電気、略して東芝になったものです。総合電機メーカーとしてスタートし、現在の主な事業領域は、エネルギーシステム、インフラシステム、ストレージ&デバイスソリューション、デジタルソリューションなど多岐にわたります。
昨年5月に発表した中期経営計画では、2023年12月の非上場化を経た今後の方向性を示しました。将来の成長戦略ではエネルギー・インフラ領域を軸に据えており、なかでも現在の世界的なエネルギー革命を追い風に受注や売上が好調に推移しているエネルギー関連事業は、2025年・2026年に向けてさらに強化していく予定です。そして当社グループは、カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミーの実現や、誰もが享受できるインフラ・繋がるデータ社会の実現を目指し、取り組んでいます。
私がシンガポールに赴任して1年半ほどになりますが、東芝アジア・パシフィック社は2025年に設立30周年を迎えます。この拠点は1995年に設立されましたが、それ以前から東芝の販売拠点として機能していました。家電販売を行っていた東芝シンガポール社が、統括機能を担う形で東芝アジア・パシフィック社へと発展しました。
当初は、アジア地域の物流・調達拠点を目指して設立されましたが、現在ではASEAN・インドを含めたアジア全域の統括機能を持ちつつ、シンガポール国内の営業活動も行っています。具体的な取り組みとしては、量子暗号通信(Quantum Key Distribution: QKD)関連のプロジェクト、シンガポールの公共交通機関SMRT向けの機材供給、シンガポール・ポスト向けの郵便物自動処理システムの納入などがあります。
また、東芝グループとして、シンガポールには他にも複数の事業会社があり、例えば業務用プリンタの製造販売をしている東芝テックシンガポール社、半導体関連の東芝エレクトロニクス・アジア社(シンガポール)などが事業活動を行っています。
東芝アジア・パシフィック社では、人材育成にも力を入れています。毎年、アジアパシフィック地域の若手社員を対象にシンガポール国立大学(NUS)で研修を行っています。マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本、インド、オーストラリアなど、各国の若手社員が集まり、プロジェクトの発表を行います。優秀なチームは日本で開催されるDX大会に参加し、アジア代表として発表する機会を得ることができます。
また、グループ5社合同でCSR活動を展開しており、毎年募金活動や海岸のクリーンアップ活動などを実施しています。
ASEAN市場のダイナミズムと、シンガポールの戦略的価値
ー シンガポールでのビジネスの魅力や課題について教えてください。
橋本:事業経営の面白さですね。シンガポールは世界的に見ても非常にユニークな立ち位置にある国だと思います。
私は1992年に東芝に入社し、1995年から半年ほどシンガポールに滞在する機会がありました。その後、日本に戻りましたが、時を経て2023年に再びシンガポールに来ることになりました。その際、シンガポール政府が私の1995年当時のID情報をしっかりと記録しており、EP(雇用パス)を取得する際に「当時の番号が確認できたので、同じ番号を使用してください」と言われたことに大変驚きました。この出来事を通じて、シンガポールのデジタル化の進展や国のマネジメントの深さを改めて実感しました。
シンガポールの人口規模は約600万人で、地理的には中国14億人、インド14億人の間に位置しています。東南アジア7億人の中で、それぞれの国が小さな規模で独自の言語・文化・経済圏を持っており、ASEAN諸国が協力し合いながら経済圏を形成していくことは非常に難しいのですが、シンガポールはその中心的な役割を担い、リーダーシップを発揮しながら取り組んでいる点がとても印象的です。
私は長年日本で仕事をしてきましたが、日本の多くの人々が東南アジアを十分に意識していないと感じます。現地にいると東南アジアのダイナミックな変化を肌で感じられますが、日本からはその魅力を知ることが難しいと思います。
しかし、シンガポールに身を置くと、それぞれの国が異なるペースと規模で成長を続けていますし、それぞれの国でどのようにビジネスに重心を置くかが鍵となります。その組み合わせの多様さと潜在的な成長に大きな面白さがあると考えています。
内藤:アジア市場の多様性・複雑性が魅力である、と。
橋本:そうですね。中国やインドは広大な国であり、地域ごとに経済レベルや文化が大きく異なります。現地で事業を展開することで、その多様性と複雑さをより深く実感します。確率的な見方や判断だけではビジネスの成功は難しく、実際に現地で活動しながら適切なアプローチを考えていく必要があります。そのため、多くの企業がシンガポールを拠点にしながら、東南アジア全体での事業展開に取り組んでいるのだと思います。