経営者インタビュー
経営者に聞く「Sealed Network 創業者 Benjamin Emmanuel Lee 氏」
Top Management Interview

トップマネジメント対談:業界分析・企業財務と専門家知見の融合
2026年、東南アジア特有の「オフラインの知見」を強みとするエキスパートネットワーク、Sealed Networkがユーザベースグループの一員として新たに加わります(2025年12月発表のリリースはこちら)。
この大きな節目を前に、Speeda 東南アジアCEOの内藤靖統が、Sealed Network創業者のBenjamin Emmanuel Lee(ベンジャミン・エマニュエル・リー)氏にインタビューを行いました。Grabの最前線でUberとの激しいシェア争いを経験してきたBenjamin氏が考える「東南アジアで勝つための条件」とは何か。Speedaを「最高の地図」、Sealedを「熟練のガイド」になぞらえて語られる両社のシナジーから、強固なコンプライアンス体制、そして創業の舞台裏に至るまで、じっくりとお話を伺ってきました。
イントロダクション&ビジョン
内藤: 本日は、2026年からユーザベースグループの一員となったSealed Network(以下、Sealed)の創業者のBenjaminさんにお越しいただきました。Ben、本日はありがとうございます。まずは、Sealed Networkについて教えていただけますか。
Benjamin: 内藤さん、ありがとうございます。
Sealed Networkは、東南アジアに特化したエキスパートネットワークです。グローバルなコンサルティング会社や投資ファンド、事業会社の戦略チームを、東南アジア地域のトップクラスのエキスパート(専門家)と繋いでいます。
Sealedを設立した背景には、ある重要な気づきがありました。それは「東南アジアは、国境・言語・規制のあらゆる面で、非常に分断された市場である」という点です。
こうした強い分断構造があるため、欧米や日本のようにビジネスデータが標準化・集約されることはほとんどなく、多くの場合、価値あるデータが公開されることはありません。その結果、真に価値のあるインサイトは「オフライン」のまま地域ごとに埋もれてしまい、特定の業界やニッチ領域の現地オペレーター、規制当局、事業オーナーたちの「頭の中」だけに留まっているのが現状です。
Sealedは、この構造的な情報の非対称性を解消するために存在しています。Google検索や一般的な市場レポートでは決して得られない、この「見えない知見」へのゲートウェイ(入り口)として、企業の意思決定を支援しています。
内藤: 「市場の分断性」は、東南アジアを理解する上で極めて重要な視点ですね。現在、多くのグローバルなエキスパートネットワークもこの地域で活動していますが、その多くはLinkedInに依存しています。 かねてより「東南アジアで最も価値ある情報はオフラインにある」と強調されていますが、インドネシアやベトナムのような市場でビジネスを展開する上で、なぜその違いが重要になるのでしょうか。
Benjamin: それは、圧倒的な「デジタル・ディバイド(情報格差)」が存在するからです。
例えば、ニューヨークやロンドンでマーケティング担当の副社長にインタビューしたければ、LinkedInで簡単に見つけることができます。日本で専門家を探すなら、ユーザベース(NewsPicks)が広大なネットワークを提供してくれるでしょう。
しかし、ジャカルタの廃棄物管理のサプライチェーンや、マニラの建設セクターの実態を知りたいとなると、話は別です。現地のビジネス界を実質的に動かしているキーマン──いわゆる「Uncle(アンクル)」や「Auntie(アンティ)」と呼ばれるような重鎮たちのプロフィールは、オンラインにはまず存在しません。彼らはLinkedInを使っていないのです。
彼らと繋がるためには、地域のインナーサークル(内輪のコミュニティ)に入り込むためのコネクションが不可欠です。LinkedInだけに頼っていては、東南アジアの中でも「西洋化された層」しか見えず、真のゲートキーパー(鍵を握る人物)を見逃してしまいます。
Sealedが他社と一線を画しているのは、信頼と紹介を通じて、こうした「オフライン」の専門家を開拓できる現地チームを持っている点です。私たちは、Googleですら見つけられない人々を見つけ出し、クライアントに繋ぐことができるのです。
ユーザべースとの未来
内藤:Sealedは2026年、正式にユーザベース(Uzabase)グループの一員となります。今後の展望や期待について教えてください。
Benjamin:ユーザベースとのシナジー効果には、私自身、非常に大きな期待を寄せています。
まず第一に、Sealedのグローバルクライアントに対して「日本市場」を完全に開放することが可能になります。日本市場はローカル色が強く、グローバル企業が最も苦戦する市場の一つです。しかし、ユーザベースが保有する約20万人もの日本人エキスパートへのアクセスを提供できれば、彼らにとって日本市場開拓の道が大きく拓かれることになります。
そしてもう一つは、日本企業の東南アジア進出への貢献です。日本企業の東南アジア展開が加速する中で、Speedaのユーザーと、私たちが得意とする「ハイパーローカル(地域密着型)」なエキスパートを直接繋ぐことができるようになります。これは非常に楽しみな展開です。
究極的には、日本のプロフェッショナルが持つ「職人気質」とも言える卓越性と、東南アジアの「ローカルな現実」との間に、強固な架け橋を築くこと。この両者の協業こそが、グローバルクライアントの挑戦を支える決定的な鍵になると信じています。

Speedaとのシナジー
内藤: Speedaのユーザーは、プラットフォームを通じて業界全体を可視化し、最新のトレンドを追い、成長ドライバーを特定しています。しかし、たとえ質の高いデータが手元にあっても、いざ市場に参入しようとすると「文脈の欠如(Contextual Blindness)」という壁に直面することが多々あります。
Benjamin: その点において、すでにSpeedaを利用しているユーザーのエコシステムに対し、Sealedはどのように貢献できると考えていますか?
内藤: 私は、両者の関係を「地図とガイド」に例えています。私たちはSpeedaで、最高精度の「地図」を提供します。市場規模、主要プレイヤー、財務状況といった、いわば市場の全体像(地形)をユーザーに示します。これなしに戦略を立てられません。
しかし、どれほど優れた地図であっても、「現地で今、注意すべきなのはどこか」という微細な情報までは教えてくれません。例えば、「この道は地元の抗議活動で封鎖されている」とか「あの橋は実は老朽化して危険だ」といったリアルタイムの状況です。Sealedは、まさにその「ローカルガイド」の役割を担う存在だと思っています。
つまり、Speedaは「どこで戦うか(市場機会)」の特定を助け、Sealedは「どう勝つか(実行戦略)」を練る部分を強力にサポートする。この組み合わせが重要なんです。
Benjamin: なるほど。Speedaはユーザーにとっての「地図」であり、現在地とチャンスのありかを示す。一方で、Sealedがその「文脈(コンテキスト)」を補完するわけですね。
現地のリアルな状況や暗黙知を加えることで、意思決定が初めて現実の世界と繋がります。Speedaがなければ目的地を失い、Sealedがなければ安全に前へ進むことができない。私たちはまさに「両輪」となって、クライアントの挑戦を支援していけそうですね。

具体的なユースケース
<ケース1:経営企画・事業開発>
内藤:具体的なケースで考えてみましょう。例えば、日本本社の経営企画部門やシンガポールの地域統括拠点が、Speedaを使って東南アジアでの新規事業を検討しているとします。彼らはプラットフォーム上で、データセンター、廃棄物管理、EVバッテリーリサイクルといった魅力的なビジネス機会を見つけ、将来の市場規模や投資動向も確認済みです。
しかし、そこで「この機会は、自社にとって本当に実現可能なのか?」という大きな疑問が残ります。Sealedは、こうした注目セクターにおける「現場のリアリティ」をどのように検証していくのでしょうか。
Benjamin: まさにそのような場面こそ、私たちが最も価値を発揮できる「フィージビリティ・チェック(実現可能性の検証)」の領域です。
例えば、データセンターを例に挙げましょう。クライアントはSpeedaのレポートを通じて、「ベトナムでデータセンター建設の需要が急増している」という右肩上がりのグラフを目にするかもしれません。
一見すると「宝の山」に見えますが、Sealedを通じて現地の送電網オペレーターや工業団地の管理者にインタビューを行うと、こんな答えが返ってくることがあります。「確かに需要は凄まじい。ですが、現地の変電所はすでに容量がいっぱいで、今後4年間は拡張の予定もありませんよ」と。
この一言で、その「宝の山」は瞬時に「現時点では参入不可」の案件へと変わります。しかし、私たちはただ否定的な事実を伝えるだけではありません。こうした壁に直面した際、では別の角度からどう攻めるべきか、その代替案を共に考案するお手伝いもできると考えています。
内藤: 廃棄物管理などの規制が絡む業界でも、同じようなことが言えそうですね。
Benjamin: おっしゃる通りです。データが市場の成長性を示していても、現地のエキスパートは「実はこの領域のライセンスは、特定の現地財閥と関係を持つ企業にしか下りないのが実情だ」と明かしてくれるかもしれません。そうなれば、次のステップは「参入の是非」ではなく、「そのパートナー候補をいかに特定するか」に変わります。
このように私たちは、クライアントが「理論上の市場機会」と「実行可能な事業機会」を明確に区別し、確実な一歩を踏み出すための支援をしています。
<ケース2:M&Aのソーシング・営業ターゲット選定>
内藤: そのリアリティチェックは極めて重要ですね。次にM&Aの文脈でお聞きします。Speedaで非常に人気のある機能の一つに、財務データベースを活用した買収先や提携先候補の「ターゲットリスト作成」があります。
例えば、財務的に健全な企業50社のリストができたとしましょう。そこからSealedのエキスパートの知見を活用して、本当にアプローチすべきトップ10社にまで絞り込むことは可能でしょうか。いわば「財務諸表の向こう側」をどう見せてくれるのか、教えてください。
Benjamin: 財務情報は「その企業の過去」を示しますが、エキスパートの知見は「未来」を見通すヒントを与えてくれます。
おっしゃる通り、Speedaは「定量スクリーニング」において最高のツールです。赤字企業や規模が小さすぎる企業を即座に除外できます。しかし、50社の「ロングリスト」が完成した後に必要となるのは、深い「定性スクリーニング」です。
私たちは、ターゲット企業の元従業員やサプライヤー、販売代理店といった周辺関係者へのインタビューを支援しています。そこでは、以下のような「生の情報」を確認していきます。
- その企業は、サプライヤーへの支払期限を厳守しているか?
- 報告された売上は本物か、あるいは帳簿を良く見せるための「押し込み販売」によるものではないか?
- 企業文化はプロフェッショナルか、それとも独裁的な同族経営で組織に歪みが生じていないか?
こうした「評判(レピュテーション)のリスク」は、どれほどバランスシートを眺めていても載っていません。私たちは、単に数字上で健全に見える企業ではなく、クライアントが真に信頼を置ける10社のパートナーを選び出すためのサポートをしています。

<ケース3:マーケティング戦略の策定>
内藤:駐在員や営業企画の担当者の方は、Speedaを通じて「現地の競合企業が急成長している」というトレンドを目にすることがあるはずです。しかし、データは「結果」を示してはくれますが、その「原因」までは教えてくれません。エキスパートインタビューによって、こうしたトレンドの裏に隠されたメカニズムが明らかになった例はありますか?
Benjamin: これは非常によくあるケースです。ある日系企業が、自社の売上は横ばいなのに、現地の競合他社が前年比10%以上の成長を遂げていることに気づきました。クライアントは当初、その原因を「製品の品質や価格の差」にあると考えました。通常、売上が伸び悩むと、日本企業は非常に真面目に製品やサービスの改善に取り組もうとします。
しかし、競合他社の元営業部長にインタビューしたところ、市場の力学が全く別の場所に働いていることが見えてきました。具体的には、品質や機能といった「製品力」の差ではなく、「流通チャネルにおけるインセンティブ設計」が、その市場での勝敗を分ける決定的な要因となっていたのです。
内藤: 非常に興味深いですね。事業開発の議論では、顧客ニーズを特定し、製品がそれに合致しているか、いわゆる「プロダクト・マーケット・フィット(PMF)」を確認することに集中しがちです。しかし、たとえ製品が市場ニーズに完璧に合致していても、それとは別の「成長を妨げる隠れた要因」がある。それを明らかにする必要があるということですね。
Benjamin: その通りです。先ほどの例は、単純に「販売戦術とインセンティブ設計」の違いでした。
多くの日本のビジネスパーソンは「良い製品・サービスであれば売れるはずだ」という前提を持っていますが、東南アジアではその常識が必ずしも通用するわけではありません。
これは、日本人が初めて東南アジアに来たときに、挨拶で差し出した名刺をぞんざいに扱われたり、レストランのビールに氷が入っていたりして受ける「カルチャーショック」と同じです。自分の常識がそのまま通用すると思ってはいけません。ビジネスにおいても、深くローカライズされた知識の習得が不可欠なのです。
信頼できるサービス
内藤: 日本企業はコンプライアンスに対して非常に高い意識を持っています。Sealedは、コー・ブーン・フウィ氏やQuest Venturesといった、極めて信頼の厚い方々の支援を受けていますね。トップクラスの機関投資家が求める厳しい基準を、どのように担保されているのでしょうか。
Benjamin:おっしゃる通り、エキスパートネットワークにおいて、コンプライアンスは何よりも優先されるべき側面です。私たちはコンプライアンスを、単なる「事務的なチェック項目」ではなく、提供する「コア・プロダクト(核心的な製品価値)」として捉えています。
日本の上場企業にとって、「レピュテーション(評判)リスク」が何物にも代えがたい重要事項であることは十分に理解しています。Quest Venturesのような厳格な機関投資家や、コー・ブーン・フウィ氏のようなリーダーによる審査をクリアするため、私たちは「銀行グレード(銀行水準)」の強固なコンプライアンス体制を構築しました。具体的には、3つのセグメントで対応しています。
第一に、「エキスパート」に対する管理。すべての方に対し、重要非公開情報(MNPI)、営業秘密、機密データを決して共有しないことを明文化した厳格な利用規約への同意と署名を義務付けています。
第二に、「クライアント」への配慮。お客様の特定の要件に合わせてプロセスをカスタマイズします。不適切な質問を避けるための注意喚起はもちろん、通話の録音や書き起こし、さらに安全性を高めるためにSealedのアナリストが同席する「シャペロニング(立ち会い)」といったツールも提供しています。
第三に、「雇用主」に対する尊重。各企業の境界線を尊重します。企業が「自社の従業員をエキスパートとして活動させたくない」と判断された場合は、除外を申請いただくだけで、プラットフォームへの登録を完全にブロックします。
私たちの最終的な目標は、インサイダー取引という「地雷」をクライアントに踏ませることなく、ビジネスに不可欠な生のインテリジェンスにアクセスしていただくことです。Sealedとなら、安心して最先端の知見に触れていただけます。
編集後記:Sealed創業の舞台裏
内藤: Ben、今日は本当にありがとうございました。最後に、Sealedの創業ストーリーについて、少し個人的な背景を聞かせてください。Sealedを立ち上げる前、あなたは配車アプリ大手「Grab」に在籍されていましたよね。当時、GrabとUberが東南アジアで激しいシェア争いを繰り広げていた、まさにその渦中にいたとお聞きしました。
Benjamin: はい、当時は信じられないほどダイナミックで、かつ過酷な日々でした。GrabとUberが東南アジアの覇権を巡ってしのぎを削っていたとき、私はまさに最前線に立っていました。
結果としてご存知の通り、最終的に東南アジアで勝利を収めたのはGrabでした。その経験から得た最大の教訓は、「ローカライズこそが勝利の鍵である」ということです。
Uberには素晴らしいグローバルプロダクトがありました。しかし、Grabの方が現地のドライバーや乗客のニーズ、支払い方法といった「ローカル市場の細かなニュアンス」をより深く理解していました。グローバルで成功したモデルを、この地域にそのまま「コピー&ペースト」しても通用しない。ビジネスは「ハイパーローカル」でなければならないと痛感したのです。

内藤:その実体験が、あなたの視点を大きく形作ったのですね。それがどのようにSealedの創業に結びついたのでしょうか。
Benjamin: 具体的なコンセプトが浮かんだのは、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)で働く友人が「エキスパートネットワーク」という業界を教えてくれたときです。興味を持ち、世界中にどのようなプレイヤーがいるのか深くリサーチし始めました。
そこで、日本のユーザベース(MIMIR)や、中国、中東、アフリカなどに特化したネットワークが存在することを知りました。しかし、非常に興味深いことに、ASEAN地域に完全に特化したプレイヤーはどこにもいなかったのです。
これは、Grabでの私の経験と強く共鳴しました。東南アジアがいかに分断されており、真の洞察が「オフライン」に眠っているかを身をもって知っていたからです。私たちは、この地域の「ハイパーローカルな架け橋」になれる大きなチャンスを見出しました。だからこそ、2019年にSealedを設立し、初日から東南アジア市場だけに集中することに決めたのです。
内藤: 貴重なお話をありがとうございました。そして読者の皆様、最後までお読みいただきありがとうございました。ユーザベースのアジア展開、そしてSealed Networkがもたらす独自の価値について、少しでも理解を深めていただけたなら幸いです。

取材日:2025年12月19日
※インタビュー記事に記載の内容や、登場人物の所属・肩書は、インタビュー時点での情報です。
