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Trend Reports

日系 FMCG が如何にアジアでファンを築くか

サマリー

日本の FMCG(Fast-Moving Consumer Goods、日用消費財)ブランドは、東南アジア全域において強力な流通網と品質に対する評判を築きあげてきた。しかし、近年、模倣が困難であるとされるファンロイヤルティに投資してきた韓国系ブランドや現地の競合他社にその地位を脅かされている。
ベトナム、インドネシア、シンガポールにおけるブランド事例の分析と、実務担当者へのインタビューを通じて、成功しているブランドが購入者を熱心な支持者に転換させるための3つの手法が明らかになった。各手法は、仕組みもコストも異なり、ブランドの置かれた状況により最適な選択肢も異なる。しかし、競合他社がコミュニティを独占する前にアクションを起こす意思さえあれば、これら3つの手法のいずれも、日本のブランドにとって有効な武器となるはずである。

本記事はNRIシンガポールからの寄稿です。同記事NRIの公式ウェブサイト(こちら)でも公開されております。

静かに広がるギャップ

日本のFMCGブランドは、東南アジアにおける流通網の構築に長い時間を費やしてきた。製品は店頭に 並んでおり、ブランド名も広く認知されている。それにも関わらず、ベトナムの消費者の90%が過去3ヶ月の間にブランドを切り替えているという実態がある(McKinsey, 2023 年)。

日本ブランドの問題の本質は、製品の品質にあるのではない。原因は、ブランドの認知度とブランドロイヤリティの間に生じているギャップにあり、3つの構造的な要因がそのギャップをさらに拡大させてい る。
第一に、消費者は「手に入りやすさ」ではなく「自己のアイデンティティ」に基づいて選択を行うようになっていること。
第二に、韓国ブランドや現地のローカルブランドが、製品の優位性よりも「情緒的なつながり」によって支持を得ていること。
そして第三に、TikTokを介した「発見」や「ライブコマース」が購買決定のあり方を恒久的に変化させ、テレビCMといった従来の一方的な広告よりも、コミュニティからの信頼性を重視するようになったことである (Google, Temasek & Bain, 2025 年)。


勝てるブランドは何が違うのか

東南アジアにおいて、真のファンロイヤルティを築き上げているブランドは、いずれも2 つの階層の中で様々な活動をしている。

第1階層(商業的基盤)は、いわば前提条件である。手頃な価格設定、滞りのない流通網、継続的な製品リニューアル、そしてプロモーション活動が該当する。日本のFMCG ブランドは概ねこれらを高い水 準で備えている。

競合との差別化を決定づけるのが第2階層(ファンアーキテクチャ)であり、現地の消費者が持つアイデンティティやコミュニティに対する鋭い洞察、体験型・参加型の施策、そして信頼できるローカルチャネルを通じた情報の拡散が含まれている。日本の FMCGブランドが抱える課題のほとんどが、まさにこの第 2 階層の欠如にある。

第2階層を構築する手法には3つあり、それぞれブランドと消費者の間の関係性の方向によって定義される。

すでにこれらを実践している成功ブランド

Acecook(ベトナム)、WardahおよびMILO Van(インドネシアおよびシンガポール)、そして ASICS(東南アジア)は、それぞれファン構築において根本的に異なるアプローチを採用している。これらの事例を組み合わせることで、この地域における日系FMCGブランドが採用し得る戦略のあらゆる選択肢を把握することができる。

第1の手法は、ブランド自身のストーリーを消費者に提供し、それを消費者に自分たちのものとして表現してもらうことで、ブランドへの関心を高めるというものである。
設立30年に際し、Acecookは、「Acecook Việt Nam 30 năm hòa nhịp sống Việt(Acecook ベトナム 30 周年記念レシピコンテスト)」を 開催した。自社製品を使った料理を創作してもらうこの企画は、料理を自分流にアレンジすることに強い愛着を持つベトナムの人々の心理を巧みに捉えた。この試みは、個人フードブロガーたちのネットワ ークを通じて、自然な形で拡散されていった。このキャンペーンに直接関与した独立系 FMCGコンサル タントは、「真の原動力は有名人ではなく、自らの創作料理を投稿した個人フードブロガーのネットワ ークだった。
この「自分事化」意識こそが、単なる購入者を熱心なファンへと変えた」と指摘してい る。さらに、このキャンペーンを通じて得られた消費者からのインサイトは、ミシュランガイド掲載レストランとのコラボレーションや、現地産食材を活用した製品革新など、Acecook の研究開発(R&D)プロセスに直接フィードバックされている。

第2の手法は、ブランドが自身のストーリーを一旦脇に置き、消費者の文化や興味関心に基づいた彼らの日常へと分け入るアプローチだ。
WardahとMILO Vanが選んだのは、新たなコミュニティを構築するのではなく、すでに存在しているコミュニティの中へ身を投じる道である。Wardahは、インドネシアのムスリム女性が帰属するイスラム系ネットワークや大学組織、ラマダン関連行事に深く入り込んだ。 結果、同国最大の国産化粧品ブランドへと登り詰め、美容ブランドにおいて、他を圧倒するロイヤリテ ィを構築したのである。
対する MILO Van は、シンガポールの人々が数十年にわたりひっそりと受け継いできた習慣である「学校の運動会で配られた無料のMILO」という記憶を現代に呼び戻した。消費者 が抱く懐かしさを、公に表現し共有できる物理的な形として提供したのだ。
MILO の建国60周年キャンペーンにおいて、エンゲージメント数こそ下位から 2 番目であったが、移動販売車を使ったプロモーションは、追跡調査された全施策の中で最も感情に訴えかける消費者の反応を生み出した。両事例の成功要因は、消費者が何者であるかを深く理解し、彼らが主役として既に存在している領域へと、ブランドの側から歩み寄った点にある。

3つ目の手法はさらに一歩踏み込み、ブランドと消費者が、どちらか片方だけでは作り出せない何かを共に作り上げることを目指すことである。
「ASICS ランニングクラブ」は、シンガポール、インドネシア、タイで毎週、体系的なトレーニングプログラムを提供しており、ASICS がイネーブラーとなることで、コミュニティに共通の目標を提供した。1年目に参加したメンバーが 8年目にはブランドの熱心な 支持者となり、その運営費用は四半期あたり約5,000シンガポールドル(約55万円)程度に過ぎなかった。ASICSの東南アジア事業は、2021年から2025年にかけて売上高を44 億円から255 億円へと急成長を遂げ、年平均成長率(CAGR)は 52.9%に達した。
ASICS 東南アジアで地域マーケティング責任者を務めた Speeda の専門家は、「当初、本社はあらゆる事項を細かく精査したがっていた。しかし、時間の経過とともに、現地チームに大幅な権限が委譲されるようになった。この変化こそが、コミュニティ構築を可能にした」と説明している。


これら3つの事例が明らかにしているのは、ひとつの体系的な論理である。

  • Acecookは、ブランドのストーリーを消費者に「自分事化」させ、発展させることで、消費者をブランドの世界へと引き寄せた。その結果、ブランドは、消費者個々のアイデンティティを反映する存在となった。
  • WardahとMILO Van は、それとは逆のアプローチをとった。消費者が既に生活している世界にブランドを持ち込むことで成功を収めたのは、彼らが、消費者が本来どのような存在であるかを深く理解していたからである。
  • ASICS は、この両方のアプローチを同時に実行した。共通の目標を持つコミュニティを共創することで、「ブランドを離れることはコミュニティそのものを離れること」を意味するような強固な関係性を築き上げた。

これら3つの手法を合わせれば、ブランドと消費者のあらゆる関係性を網羅することができる。そして、日本のFMCGブランドは、製品への信頼、文化的な背景、職人の拘りなど、これら3つすべてを実 践するための素養を十分に備えている。


手法から実行へ:すべてのブランドが従うべき手順

ブランドがいずれの手法を採用するにせよ、その実行は常に3段階のプロセスに従う。手法がブランドと消費者の関係の方向性を決めるのに対して、手順はその関係が構築される順序を決定する。手法に関わらず、いずれかの段階を一つでも飛ばしてしまうと、コミュニティの信頼を得られないという結果に終わってしまう。

第1段階:関連性の獲得。
ブランドはまず、特定の消費者層に対して、「このブランドは、私の個性や価値観に合致しているか?」という問いに答えなければならない。

  • ベトナムでは、「都市生活のストレス解消と癒し」、そして「自己研鑽を通じた自己形成」が、1つのアプローチしやすい顧客接点となっている。これらは、日本の製品特性と親和性が高いにもかかわらず、日本のFMCGブランドが十分に応えられていない領域である。
  • インドネシアでは、日本のFMCGブランドが競合他社よりも安全・品質の裏付けを持っていることから、機能性や信頼性を共通のアイデンティティとして位置付けることが、1つの確実な足がかりとなる。
  • シンガポールでは、日本のものづくりの伝統・職人の拘りを、単なる高品質のラベルではなく、 独自のデザイン哲学として表現することで、ブランドによる活性化を待つ熱心な層を動かすこと ができる。

第 2 段階:帰属意識の創造。
関連性を獲得した次は、消費者がそのブランドに集まり続けるための継続的な理由を提供する必要がある。1回目の施策では認知を生み出し、3回目は習慣を形作り、そして10 回目でようやくロイヤルティが確立する。例えば、単発の季節限定キャンペーンは、第 2 段階には該当しない。週、月、または年単位で、継続的に提供され続けるプログラムこそがこの役割を果たしてい る。

第 3 段階:成長と増幅。
信頼できる個人や著名人のインフルエンサーを通じて、コミュニティとしての 繋がりを発展させていくことが、主な成長・増幅の仕組みである。 ブランドは、報酬を伴うプロモーション活動等を行う前に、まずは関係構築と帰属できるコミュニティ づくりを最優先に行う必要がある。真の関係を構築する前に大々的なプロモーションを行ってしまう と、個々人やコミュニティが素直に受け取ることが難しいメッセージを受け取ることになる。これは、 多くの日本の FMCG ブランドが陥る第 3 段階における失敗パターンである。

実行方法

このように、戦略的な論理は明確である、だが、ほとんどのブランドが実行の段階で足踏みすることに なる。そこで、実践的な取組イメージを 3 つ紹介する。

最初の採用:
ターゲットとなるコミュニティの一員であり、すでに積極的に活動している人物をコミュ ニティ・マネージャーとして迎え入れる。この人物は、単なるSNS運用や投稿管理を行う担当者ではな い。ブランドが参入する前からそのコミュニティで名前が知られており、信頼されている人物である必要がある。このような人材を見つける方法は、求人広告ではなく、コミュニティからの紹介である。

外部委託 vs 内製:
最初の1~2年は、各アクションのスピードとコストの面で有利な外部委託を活用することが考えられる。また、制作やイベント運営業務、有料メディアの運用などについては、専門家に 外委委託する方が効率的であるケースも多い。一方で、コミュニティマネジメントや KOL(Key Opinion Leader)との関係性の構築は、当初から内製すべきである。これらは信頼関係に基づく活動で あり、築かれた関係性という資産は、代理店ではなくブランドそのものに帰属させる必要があるためで ある。

代理店の選定:
以下の 3 つの基準が重要となる。

  1. ビジネス成果:インフルエンサーの動員数ではなく、コミュニティの成長指標やリピート購入率の向上といった成果を重視しているか。
  2. コミュニティへの理解:例えば、インドネシアを単一の市場として捉えないことや、ベトナムの ホーチミンとハノイは全く別物であることを理解しているか。こうした地域ごとのサブマーケット、そしてコミュニティに対する理解が不可欠である。
  3. 運用の卓越性:その代理店が真摯に案件に向き合い、スピードとクオリティを両立させた行動をとれるかという実務遂行能力を持っているか。
    予算規模:東南アジアの1つの市場・1セグメントを対象としたパイロットプロジェクトの場合、通常4万米ドルから始まる。中規模の市場展開であれば、15万~50万米ドル、全国規模のフルプログラムを実 施する場合は、50万米ドル以上の予算が必要となる。予算ありきの取組ではなく、目的と予算(相場)を理解したマーケットインでの動き方も求められる。

参考文献

1. McKinsey & Company (2023). Vietnamese consumers are coming of age in 2023: How businesses can stay ahead.
URL: https://www.mckinsey.com/featured-insights/asia-pacific/vietnamese-consumers-are-coming-of-age-in-2023-how-businesses-can-stay-ahead

2. Google, Temasek & Bain & Company (2025). e-Conomy SEA 2025: From Digital Decade to AI Reality.
URL: https://www.bain.com/insights/e-conomy-sea-2025/

本レポートは、分析と議論の内容をより充実させるため、Speeda Expert Research Serviceを通じて得られた専門家の知見を取り入れている。

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